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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

ヨイショもセコいも寄席のことばだった

2006年11月07日

 「トリ」が寄席ボキャだったなんて、知られているようで知られていませんよね。他にも寄席や落語家から広まったことばってあるんですか。

 結構ある。よく知られ、使われているのは「ヨイショ」だね。

 「ヨイショ」も寄席がルーツとはね。他には?

 もうひとつ、メジャーなところでは「セコい」。

 へえ、セコいよ、ってよく言いますけど、あれも?

 「ヨイショ」は寄席ばかりじゃなく、花柳界が職場の幇間(ほうかん=たいこもち)なども使った芸人一般の隠語だろう。いま一般に使われているのもルーツの隠語とほとんど同じ意味だ。お世辞を言ったり、おだてたり、ときにはまるで心にもないことを言って相手の機嫌をよくしておいて、うまく乗せてしまうことだね。「ヨイショッ」と、囃し言葉、掛け声のように使われているね。

 語源は重い物なんか持ち上げるときの「よいしょ」という掛け声ですか?

 まあ、そうだろうね。重い物体ばかりでなく、相手の重い気持ちを軽く持ち上げてその気にさせる。さっき言った「乗せる」意味合いだろう。ついでに寄席の世界で「ノセル」といえば飯を食うことだ。本格的な食事でなくても、ある程度まとまった量を食べるのを「ノセル」というんだ。

 じゃ12時だから昼飯をノセよう、って言うんですか?

 それじゃ、ことばに無駄があって締まらない。ことばをスッキリ整えるのも落語センスというものだよ。「昼だね。どっかでノセようか」って具合にいきたいね。

 「セコい」はだいぶ前から学生や子どもまで使っていますね。

 これもルーツとほぼ同じ意味で使われているようだ。セコいは、粗末なこと、拙劣なこと、陳腐なこと、見所がないこと、きたならしいこと―、とにかく、いい意味には使われない。値段が安いことにも言う。ただしお買得の安さには言わず、安かろう悪かろうの場合に使うのだね。

 食物がまずい場合にも?

 そう。応用範囲がとても広いから一般にも普及したのだね。もともとは仲間内で「あいつの芸はセコいね」とか、興行業者を目の前にして芸人同士が「ちょっとオタロがセコだよな」と内緒の相談をするなどの場合の隠語だった。相手にわからないように話すための暗号ことばだね。

 なるほど。オタロって何です?

 これは金銭、ギャラのことだ。「セコタロ」といえばひどい報酬、低賃金のことさ。「セコタレ」はブス。「タレ」は女の人だから。うっかり使ってはいけないよ。

 ずいぶん寄席育ちのことばがたくさんあるんですね。寄席って案外メジャーなのかな。むかしは寄席がテレビのようなメディアの役をしていた。そのことはまたの機会に話そう。こんなに寄席ことばが外部で広まったのはわりあい近年のことだよ。落語家がタレントと一緒に仕事をすることばが多くなって、隠語を覚えたタレントがメディアでしゃべって、だんだん広まったのだろうな。

 これからも寄席ことばが流行語になる可能性はありますね。

 まだある。しかし、実際の寄席の楽屋では、必要がない限り隠語は使うものではない。むしろ落語オタクが好んで使うのだね。これは決してほめられない。粋でもなんでもないよ。

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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