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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

扇子の話(1)

2006年12月08日

 では、カゼ――扇子の使い道を教えてください。

 「まず、扇子そのものとして使う場合がある。たとえば『青菜』でお屋敷の旦那が縁先で涼みながら扇子で煽(あお)いでいる場面」

 ああ、「植木屋さん、ご精が出ますな」で始まるところですね。

 「植木屋が庭の青い物――庭木などの緑のことをむかしはそう言ったのだが、それに水を打ったあとのことで、旦那は『涼しい』とは言っているもののまだまだ暑いから扇子を使っている。ゆったりと煽ぎながら落ち着いた声で静かに植木屋に声をかければ、いかにも大きなお屋敷の主人公らしくなろうというものだ。なにしろあれは絹張りの扇子だから高級品だよ」

 紙じゃなくて絹布が張ってあるんですか?

 「そう。透けているから見た目には一段と涼しげだな。ただしその分、風は柔かな微風だろう。まあ、植木屋のように炎天下で肉体労働をする者には、そんな風じゃものたりない」

 材料が絹では、力一杯煽いだって風は弱いでしょうからね。

 「その力一杯というのがすでに、お屋敷に住めない者の考え方だよ。力をこめればまた汗をかく。相殺のイタチゴッコさ。こんな高級な扇子に香がほのかに焚きこんであれば言うことはない」

 「青菜」の植木屋が長屋に帰って真似をするときも扇子を使いますね。

 「あれは団扇(うちわ)としての使い方だね。絹張りどころか、扇子さえ持っていないから渋団扇で代用する。高座の扇子は絹の扇子にもなれば、渋団扇にもなるというわけだね」

 長屋の住人が使うのはたいがい渋団扇のようですけど、どういう物です?

 「渋紙団扇の略称だろう。柿の渋を塗った紙が張ってある。粗末だけれど丈夫で長もちする。渋紙は簡単な敷物や梱包紙にも使われた。団扇も細い竹骨がたくさんあって軽い紙を張った上等品なら、扇子に劣らずよくしなうから柔かく涼しい風が起きるが、渋団扇は頑固なので強くて単調な風になる。涼をとるというよりも火を煽いで煮物焼物をする用具だろうね」

 それじゃ、どうしたって力一杯煽ぐことになりますね。

 「そう、バタバタ煽ぐんだ。『青菜』の場合だったら、イワシの塩焼きのにおいがしみついているよ。『今戸焼』『三軒長屋』『反魂香』『茶の湯』『野晒(ざら)し』の後半などに渋団扇で火を煽ぐ場面がある」

 「お見立て」で他人の墓をごまかすために線香の煙幕を張る場面がありますね。とてもおもしろいところですが、あそこでバタバタ煽ぐのは?

 「あれは扇子さ。吉原の若い衆だから扇子を持っている。あの場合はとにかく煙をもくもく立たせたいから、それこそサザエの壷焼きみたいにバタバタ煽ぐ」

 水商売というか、粋筋の稼業の人は男でも扇子を持つんですね。

 「幇間(たいこもち)などは扇子がないと、表現として間(ま)がもたないね。閉じたままの扇子でポンと左の掌や額(ひたい)を打って調子のいいことを言うとそれらしくなる。実際に幇間があんな動作をしたのかどうかはわからないが、これは表現のパターンになっているね」

 「居残り左平次」の左平次もそんなしぐさをしますね。

 「あれは本職の幇間ではないけれどプロはだしという人物設定だから、あざといくらいでもいいのだろう。開いた扇子で景気よくヨイショをするのも落語の中の幇間らしい動作だ」

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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