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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

扇子の話(4) 棹と櫓

2007年02月06日

 櫓(ろ)のしなう擬音の是非はともかく、船の場面では扇子大活躍ですね。

 「櫓漕(こ)ぎの形、動き、そして棹(さお)を張る形や動きはとてもサマになるから、変化の少ない落語という座芸では貴重な見せどころではあるね」

 そうか、棹も扇子で見せるんだ。

 「『船徳』では、まず柳橋(やなぎばし)の船宿(ふなやど)から新米(しんまい)、いや、それ以前の船頭徳さんの船が漕ぎ出す。ここは棹だ。むかしの物干し竿と同じような、長い竹の棹で岸、あるいは川底をぐっと突いて船を前進させる。右手を上に、左手を下にして扇子を握るが、その間隔を広めに取るように見せないと棹の長さが表現されない」

 柳橋というのは花柳界で有名なところ?

 「むかしの話だがね。ただし江戸の花柳界としては比較的新開地なのだよ、ま、それはともかく、柳橋は神田川が隅田川に合流する手前の橋で、いまもある。JR浅草橋駅のすぐそば。柳橋の河岸には今も船宿が何軒かあって釣船や観光用屋形船の商売をしている。なんとなく東京のむかしが漂うスポットだから散策してごらんなさい。で、100メートルほど神田川を下だればもう大川(隅田川)だ。川幅が広いし、船の行き来が多くて直線に進んでばかりいられない。スピードも要求されるので棹から櫓に変わるというわけだね」

 もう棹は使わない?

 「そうでもない。心ならずも船が岸の石垣にへばりついたりすれば、離れるために棹を張る。『船徳』の徳さんはさっき棹を流して失なっているので乗客のこうもり傘で石垣を突いてもらうのだが、この傘も扇子で表す。

 なるほどね。夢金(ゆめきん)でも櫓と棹を扇子で演じ分けますね。

 「あの場合は山谷堀から隅田川に出るから同じような過程を踏む。こちらは本職の船頭だがね。舟を揺さぶるために櫓を漕ぎながら大きく動くのはひとつの見せ場。浪人を川の中州へ置き去りにするところでは棹を張って見せる。いまは船頭手漕ぎの船に乗ることなどめったにないから、しぐさの巧拙を見分ける聴き手の眼力も低下せざるを得ないのだけれどね」

 サオはサオでも、釣竿も扇子で表しますよね。

 「同じ竹製品だが、こちらの字は『竿』だ。日本語は厄介だが、おもしろい。閉じた扇子を右手に握ってぐーっと前へ延ばせば釣りのしぐさになる。扇子の竿を上げて左手で色々細かいしぐさをすれば、魚が釣り上がった場面、あるいは針に餌(えさ)をつけるところなどに見せることができるわけだ」

 とくに「野晒(のざらし)」がおもしろいですね。

 「だけどあれは本当の釣りじゃないから。水をかき回したり、釣竿を振り回してはしゃいだり、自分の鼻を釣ったり、アクションは派手だから。釣竿演技の代表ではあるけれど……。まあ、じっくり本物の釣りをしているなんていうのは場面として渋すぎるから、しゃれた小咄(こばなし)ぐらいのところがほとんどだろう」

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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