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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

手拭いのはなし(4)

2007年08月16日

 さて手拭いを財布、紙入れに見せる話はうかがいましたが、たばこ入れについて話して下さい。

 「たばこ入れはいまのシガレットケース、葉巻き入れとは似ても似つかない。刻みたばこを入れる用具だから、これも袋状、あるいは小物入れのような、ふくらみのある形だ。手拭いではそのふくらみが表しにくいが、これは財布の場合と同じだね」

 刻みたばこそれ自体がもう私たちには実感がありませんよ。

 「そうだろうね。紙巻きたばこの紙を破ると大粒の粉状になったたばこが出てくるが、あれとも違うね。ごく細い繊維状に刻んであって、2、3センチの長さの糸のような“たばこ”がモヤモヤと絡み合っているのだよ」

 とろろ昆布みたいですね。

 「ん、ま、当たらずといえども遠からずかな。これを指でほんのひとつまみ、軽く指先の圧力を加え、まるめてキセルの雁首(がんくび)の先端、火皿(ひざら)に詰める。キセルは言うまでもなく扇子で見せる」

 膝(ひざ)の上に手拭いを置いてたばこ入れに見せ、指先のしぐさをしつつ扇子のキセルにたばこを詰めて、口に軽くくわえて吸う。落語のいちばん典型的な演技ですね。

 「刻みたばこはこれと決まった形のたばこ入れに入れなくても、軽いものだし、簡単に携帯出来ればいいわけだ。まあ、たばこが湿気を吸わないようにするのは大事だけどね。『居残り佐平次』の主人公なんか、新聞紙を折って即製のたばこ入れを作ったしている。だけど嗜好(しこう)品の入れ物だから凝ればいくらでも凝れるのだ」

 特別な素材で作るのですか。

 「それもあるが、付属の装飾品、たとえば根付(ねつ)けに別拵(べつごしら)えの彫金(ちょうきん)やきれいな石を付けたりしていたようだね」

 男の道楽ですね。

 「そうだが、そうとばかりも言えない。キセルの時代は結構女性の喫煙率は高かった」

 ああ、花魁(おいらん)が長いキセルを客に渡す「吸い付けたばこ」なんてありますね。

 「それは一部の特殊なケースだ。一般女性でも女房になり、丸髷(まるまげ)に結うようになればキセルを用いる人が多かったのだ。娘のうちは吸わないのがふつうだから、そこが今とは違うな。落語のしぐさとしてはキセルはほとんど男性専用だがね」

 歌舞伎で、花魁じゃないのにキセルでたばこを吸う場面を見た記憶がありますよ。中年女性の役でしたけど。

 「ああ、『人情噺文七元結』の角海老女房や『仮名手本忠臣蔵』六段目の一文字屋お才なんかだろう。遊郭の女将(おかみ)の役どころで、キセルがとても似合う。だけど、『文七元結』のオリジナルは噺のほうだよ。こちらの佐野槌女房はキセルはふつう使わない」

 どうしてでしょうか。

 「そこが、素顔で“らしく”演じる落語と、衣装をつけて“なりすます”芝居との違いだろうね。落語の場合、あの佐野槌女房は女将らしく見せることより、このドラマの筋道をつける重要な役だ。情と理を兼ね備えた立派な妓楼経営者“らしく”見せるためには、キセルなんかあってもなくても……、むしろ、ないほうがいいくらいのものなのだ」

 たばこ入れ以外の手拭いの役割は?

 「手紙、帳面、書き付け、本など、文字が書かれたペーパー類が大半だね」

 あれ、手紙は扇子で表すんじゃないんですか?

 「扇子の場合は巻紙の手紙だ。扇子の骨を一本ずつ開いて巻紙を繰るしぐさにする。だけど、巻紙の長文の手紙でなく、短い文面なら、手拭いのほうが自然にそれらしく見えるよ」

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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