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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

秋の落語(2)―おなじみはサツマイモ

2007年10月10日

 さんまのほかに秋らしいものといえば、芋(いも)、松茸、栗、秋茄子(あきなす)、新米……といろいろありますが。

 「食べ物ばかりだね。たしかにおいしいものがたくさんある季節だが、食材に因(ちな)む落語となると、そう簡単には見つからない。芋といっても明治以前にお馴染といえばサツマイモのことだ。庶民的な、また米の代用食として奨励された作物でもあるから、いろいろな噺によく顔を出すよ」

 たとえば?

 「人気のある『大工調べ』の啖呵(たんか)のところで、家主の素性を言い立てる。おめえのヤキイモはひどかったが、六兵衛さんのはよかった、昔話で喧嘩をしている。六兵衛さんの死後におかみさんに取り入った。『薪(まき)を割りましょう、芋を洗いましょうとずるずるべったりに入夫(にゅうふ)と化け込みゃアがって』なんかはおかしいね」

 与太郎がまねして、芋を割りましょう、薪を洗いましょうと間違えるのはもっとおかしいところですね。

 「芋は本場のものならおいしいし大切な食料だが、親しまれすぎたために、また形などにどこか三枚目的な要素があるために、とかく損な言われ方をする。そこがまた、とても落語にはふさわしい、重宝なところだね」

 芋が悪く言われるのは戦中戦後の代用食としてのイメージが強いからだと聞きました。

 「そうとも言えないよ。江戸の昔からサツマイモの役どころは三枚目さ。小咄(こばなし)にも『火消しはいろは四十七組とか八組とか申しますが、ない組もありまして、へ組はなかったそうですな。へ組のかしらの家はどこだい?と訊(き)かれて、芋屋の隣りですなんてえのはどうも』というのがある」

 芋がテーマの噺はありますか。

 「テーマというほどでもないが、『芋俵(いもだわら)』。俵の中に泥棒の手下が入って、大きなお店の内部に持ち込む。深夜に俵を破って出て、錠を内側から開けて親分を手引きする計画だったが、店の者が深夜のつまみ食いのために芋を少し盗もうと俵に手を突っ込んで、あれえ?という噺だ」

 ああ、聴いたことがあります。妙なところに手が触れたり。

 「そういうバレ(艶笑)なやり方もあるが、そうしたところで格段におもしろくもならないから、芋の素朴でユーモラスな持ち味を生かしたほうが『芋俵』の寿命は長いと思うね。もっとやられていい噺だ」

 他の秋の味覚ではどんな噺がありますか。

 「バレ噺の話題が出たついでに松茸の小咄を教えてあげよう。今でもまくらに使われるから聴き覚えがあるかも知れないが、この手の噺はね、若手がいい気になってやると生々(なまなま)しくていけない。老練の味で聴きたいが、文字で味わったほうが一段と味が深いよ」

 ある中国の聖人は母親の胎内で何十年も過ごしてからおもむろに生まれたので、誕生の日から多くの知恵を身につけ、森羅万象(しんらばんしょう)を心得ておりました。

 「母上の胎内はどのようなところでしたか」

 「暑くなく寒くなく心地よいところじゃった」

 「春のような陽気でしたか」

 「うむ、どちらかといえば秋じゃな」

 「それはなぜ?」

 「折々にな、下から松茸が出た……」

 笠が開く前の、新鮮な松茸……?

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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