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落語ってこんなにおもしろい

文・京須偕充

雪の噺(1)

2008年01月30日

 この冬はいつもより寒波が続くようで各地から雪の便りが届いています。東京も半日ばかり雪化粧しましたね。

 「子どものときと違って雪はあまりありがたくないが、たまの雪景色も悪くない。まだまだ2月、3月と雪の季節は続くよ」

 雪に因(ちな)む落語の話をしましょうか。

 「そういう噺は数多くあるね。落語は江戸と大坂(大阪)で形成された芸能だ。雪国の産物ではない。雪を風流なもの、美しいもの、ただし、たくさん降って積もっては困るものというとらえ方が基本にあるので、いろいろな噺の背景になる。雨では珍しくないためか、日常生活とは切っても切れない自然現象なのに、それほど重要には扱われていない」

 赤穂浪士の吉良邸討ち入りも講談では雪の夜になっていて、それが芝居や映画にまで影響していますけど、実際には降っていなかったのでは――と言われていますね。

 「忠臣蔵は美挙とされているから、背景には白い雪がふさわしい。史実はどうでも、フィクションとしては雪がお誂(あつら)え向きだね。落語の『夢金』は江戸の大雪の深夜に起きたドラマだ。サゲで夢だったとわかるが、そこまでの運びは人情噺風で手に汗を握らせる。大雪の描写がとてもリアルだよ」

 あまり聴くチャンスがありませんが。

 「大ネタだからね。40分ぐらいはかかるし、季節限定がある。また笑い主体ではないから、聴き応えたっぷりの名作のわりにはお馴染みがない。亡くなった古今亭志ん朝はわりあいやっていたよ。今は五街道雲助のが本格的だね。昔の人では三代目三遊亭金馬がとてもおもしろくて印象が強かったが、本寸法だったのは六代目三遊亭圓生。舟宿へ入ってきた不審な浪人者が『雪は豊年の貢(みつぎ)とは申せ、かよう過分に降られては』と言うあたりから早くもドラマをはらんでいてゾクゾクさせてくれた」

 雪は豊年の貢とは?

 「大雪があった年は豊年になる。米が豊作ということだね。まあこれは、江戸の大雪というよりも雪国の米どころを主体にした言い習わしだろう。大雪の年の春夏が決まって順調な気候ということもないのだろうが、昔は農業用水の確保が大変だったので、雪解け水が豊富なことは豊作の第一の鍵だった」

 今も昔も雪に慣れない都会では大雪が降ると困ったのでしょうね。

 「今は広い道をクルマが行き交うのでなかなか積もりにくいが、昔は道もたちまち屋根の上と同じ状態にまで雪が積もってしまう。歩くのが困難になるので駕籠(かご)や舟に乗るということになるね。雪があまり深く積もると駕籠も通れなくなってしまう」

 あとは舟だけですか。『夢金』も舟が舞台なのですね。

 「『船徳』の場合と違って、雨や雲のときは屋根舟に乗る。屋根のある小部屋付きの小舟だね。客はその中で炬燵(こたつ)にあたっている。船頭はむろん、外で舟を漕ぐ。蓑(みの)と笠(かさ)で身を固めてね。まあ、暑さ寒さのとき、とくに雪の場合が舟宿の掻入時(かきいれどき)さ。『船徳』の客は暑くて歩けないので舟に乗り、『夢金』は雪道を女連れでは、と舟に乗る。舟の噺の代表作はといえば冬の『夢金』、夏の『船徳』だ」

 舟は江戸の水上タクシーですね。

「舟賃はかなり高額だったから高級水上ハイヤーだね。とくに屋根舟の場合は男女の逢引(あいびき)にも使われたから、高いのも道理なのだよ」

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)
落語プロデューサー
1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。
有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。
『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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