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ラクゴロク

「夜のカセット落語」 みうらじゅん

聞き手:西秀一郎
構成:小松照昌
2006年04月20日

 「マイブーム」の生みの親、いまやサブカル界のキングとして、独自の世界を切り拓く「MJ」ことみうらじゅんさん。イラストレーター、小説家、ミュージシャンなど幅広いジャンルで活躍していることは有名ですが、実は親子ニ代にわたる大の落語ファン。そんなみうらさんに、落語との出会い、そして“MJ流落語の楽しみ方”を聞いてみました。

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みうらじゅんさん

――どういうきっかけで落語を?

 ボクの両親って、ボクが一人っ子だったせいか、たまたまそういう親だったのか、いずれにせよ、うっとうしいくらい、ボクに対して限りない愛を注いでくれるような親でした。特にオカンは勉強もしないでテレビを見ているボクに、「純(本名)、首が痛うなるさかい枕した方がエエで」といって枕を差し出してくれたり、女の子から電話かかってくると、「あんた、さっきの電話、女の子からやろ? うまいことやりや」って応援してくれたり・・・・普通の親なら、「女の子ばかり追っかけないで、勉強しなさい!」って言うと思うんです。

――普通はそうですね。

 高校生くらいになると不良にあこがれるじゃないですか。ボクはどちらかというと外では不良になれないタイプの人間でしたから、せめて家の中だけでもバリバリの不良になりたかったんです。そんなときも、「バイクに乗りたい」って言うと、「買うたらええやん。格好エエもんなぁー」とか、女の子と遊んで帰宅が深夜になっても「デートやったん? よかったなぁ。でも妊娠だけはさせたらアカンでェ」とか言うんです。「ナニしてんねん。そんなしたらアカン! 勉強せぇ!」って言われたら、「うるせー!!」って反抗できるんだけど。おかげでボクは一度も不良になれませんでした。いまでも実家に帰ると、48歳になるボクに向かって言うんです。「いつまでも、あんたは私らの子供やねん」って。

――溺愛ですね。お父さんもそんな感じだったのですか?

 どこの家もそうかも知れませんが、オカンにくらべると親父とは会話は少なかったんです。それが高校生の頃、夜いつものように自分の部屋でもんもんとしていると、突然親父が部屋に入ってきて、「おまえ、寝られへんのと違うか? これ聞いてみぃ」といって“桂米朝 上方落語大全集 第三集”と書かれたカセットを渡してくれました。ボクは親父が言う通りに、ベッドに入りイヤホンを耳に差し込んでそのカセットを聞きました。演目は「たちぎれ線香」。寄席の落語は一度も見たことがなかったのですが、まるでその会場にいるような感じで、それ以来ボクはすっかり落語ファンになってしまい、新ネタが聞きたくて毎晩のように親父にカセットを借りました。親父とボクは、「やっぱ江戸前の『野ざらし』より、米朝さんの『骨つり』の方がグッとくるなぁー」と、マニアックな会話を交わしたり、「おまえ、六代目松鶴聞いてみるか?」とか勧められたり、同級生は反抗期真っ盛りだというのに、うちの父子は落語の話でバリバリに盛り上がっていました。

――お父さんと一緒に寄席に行ったりは?

 それが一度もないんです。ボクの落語遍歴が“夜のカセット落語”から始まったからかも知れませんが、観る落語より聞く落語の方がグッときます。特に寝る時に聞く落語っていいんですよね。目をつぶっているから自然に想像が広がり、寄席にはない発見がある。たとえば米朝さんの落語の中に「極楽の余り風」という言葉が出てくるんですが、夏の暑い夜、寝苦しい中、カセットから流れてくる落語を聞いていると、どこからともなく、その「極楽の余り風」がスーッと吹いてくるような気がするんですよ。だからその後、本当に気持ちよく寝られるんです。親父も“夜のカセット落語”派だったのか、一緒に寄席には行ったことがありません。

――米朝さんと会った日のことをエッセーに書かれています。  

 東京に出てきてから、たとえば恋人が隣でグッスリ眠っていても、ボクの耳にはしっかりイヤホンが差し込まれてて、「ねぇ、夜中シャカシャカ音がしてるけど、あれ何?」って不思議な顔をされました。

 忘れもしない 「マイ・ブーム」で流行語大賞を受賞した1997年のこと。ある日「米朝さんが今度、みうらさんに会いたいと言っておられるそうですよ」ってうちの事務所の女の子が言うんです。最初は我が耳を疑いました。「みうらさんが米朝さんに会いたがってるの間違いじゃないの? 会いたがってるのはボク? 米朝さん? これすごく重要だから!」ってもう一度確認を取ってもらったんです。そしたら、米朝一門のCD制作を担当しているレコード会社のNさんが、「米朝師匠がみうらさんの書いたエッセーを読まれて、一度お会いしたいと言われてます」と。そうしてボクはNさんと東京の中央会館でおこなわれた独演会に出かけました。時代は変わりカセットからCDになっていましたが、米朝さんの落語は毎晩のように聞いていました。それでも生のお囃子(はやし)が聞こえてくると、胸がドキドキしました。しかも中入り後の演目が「たちぎれ線香」。サゲのところでは思わず涙が出てきました。初めてこの噺(はなし)を聞いた夜のこと、眠れないボクを心配して、落語のカセットテープを渡してくれた親父のこと、ボクはいろいろ思い出していました。

 終演後、Nさんの案内で楽屋に行き米朝さんとお会いすることができました。その時のことをどう表現したらいいか。20年間「耳の恋人」だった方にお会いする訳だから、とにかく緊張の極致でした。楽屋に入る時なんて深々と頭を下げて、もうまるで弟子ですよ。中に入ると奥の方にいた米朝さんは、「よう来てくださいましたなぁー。あんたは親子二代で私の落語聞いてくれてるんやてなぁー、ホンマありがたいことですわ」って言って下さって。(べ、べ、米朝さんが目の前で、それもボクの話をしてくださってる!)って、もう酸欠状態!! 何か気の利いたことを言おうとしても、言葉に詰まるは、噛むは、完全にアワワ状態になっちゃって。「べ、米朝さんの今日の演目が、『た、た、たちぎれ線香』やったん、すごくうれしかったでぇ、、すぅー」ってもうボロボロ。その後「たちぎれ線香」にまつわる思い出話をしようと思ったけど、結局、ただただ目の前におられる米朝さんを見つめていただけでした。でも親父のためにこれだけはと、勇気をふりしぼって色紙を2枚出して、「す、、すいません、、、うちの親父の分もお願いします、、、ぅ」ってサインしてもらいました。親父はすごく喜んでくれて、その色紙は額に入れて実家の玄関に飾ってあります。

――ご自分でも落語を吹き込んでいますよね。

 何年か前、「スライドショー」のハワイ公演というのがあって、飛行機内で聞くCDを作ろうって話になった。それで音楽や法話や、落語を吹き込もうということになって、ボクは「青菜」を吹き込んだんですよ。もう何回聞いたかわかんないくらい聞いていた「青菜」にはかなり自信があった。それでスタジオに入って録音を始めたんです。出だしは好調だったんですよ。でも途中、この話に植木屋さんが何人出てくるのかわかんなくなって、1人だったか2人だったか・・・・確か2人でしたよね?

――1人です。

 最初から違ってるんだぁ、やっぱダメですね。それで、旦那と植木屋までは演じ分けられてたんですが、奥さんとかが出てくるともう誰が誰だかわかんなくなって。最後に「弁慶!」って誰が言うのかもわかんない。

――たしかに出だしは抜群でした。もう、ご自分でやろうとは思いませんか?

 やっぱり古典はプロにはかないませんから、新作落語に挑戦しようかと考えたことがあって。

――楽しみですね。ちなみにどんなお話ですか?

 タイトルは「剃毛屋(ていもうや)」っていうんですけど…以前とあるTV番組で海辺ロケがあって、たまたま伊集院光さんと一緒だったんですよ。彼も落語家さんに弟子入りしてたじゃないですか。それで落語の話で盛り上がって、「よーし、新作落語作るぞ!」って。で、あたりを見回すと、海辺だから水着を着ている女性がいっぱいいて。それを見て思いついたんですよ。「剃毛屋」っていう話。

――テイモウヤ、ですか?

 たぶん処理を忘れて海に来てしまった女性もいるはず…と。

――あ、ありがとうございました!

西 秀一郎(映像・音楽プロデューサー)
1963年、東京生まれ。塗装工、運送屋、調理師などを経て1989年東芝EMI(株)に入社。企画モノ、リイシュー、クラシック、落語など独自の世界を築く。米朝一門の担当として上方落語の普及に尽力し、プロデュースした「桂枝雀落語大全」(CD、ビデオ、DVD)は空前の大ヒットとなる。2000年に独立。(株)ディスクベリー・ドット・コム代表。
小松 照昌(放送作家・ライター・三弦奏者)
1967年、大阪生まれ。中学の時に桂枝雀の落語に出会い、枝雀師匠に弟子入りを志願するもかなわず、三味線を習い始める。その後、枝雀夫人のはからいで「枝雀落語大全」のスタッフに。現在は放送作家として活躍中。

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