にわかに脚光を浴びている鹿児島県奄美地方の島唄。その第一人者が武下和平(たけした・かずひら)(72)だ。12日と13日にある久々の東京公演では、毎回曲目を変え、「百曲三千首」と言われる島唄の代表曲約30曲の、歌いまくりを試みる。(編集委員・篠崎弘)
奄美の歌の席は「朝花節」で始まる。三味線の音は高く緊張して、弦を押さえる指を使った装飾音が多い。腕の見せどころだ。締めくくりの「六調」では満座が踊り出す。沖縄のカチャーシーとそっくりだ。
沖縄民謡の人気の陰に隠れて、奄美の音楽は長く知られずにきたが、元(はじめ)ちとせの登場をきっかけに注目を浴び始めている。奄美市でライブハウス「アシビ」を経営する麓(ふもと)憲吾さん(34)は「地元の音楽の魅力を、僕たちは島外の人たちから教えられた」と語る。本土から来たミュージシャンたちが「奄美音楽は面白い」と口をそろえるのを聞いて、初めて島の財産に気づいたというのだ。
奄美民謡が広がらなかった理由を武下は「山が険しくて隣のシマ(集落)とも歌い方が違うので、自分たちだけの歌という意識が強く、奄美全体で民謡を盛り上げる機運が生まれづらかった」と推測する。
沖永良部島から南は沖縄の音階が強く、徳之島以北は本土の民謡の音階に近い。同じ奄美大島でも北部の歌は穏やかな曲調で、南部の歌はメロディーの起伏が多い。旋律も歌詞も集落ごとに微妙に違う。
それでも共通点は多い。最大の特徴は高音の裏声を多用すること。元ちとせの唱法のルーツだ。裏声で振幅の大きいメロディーを歌う技巧は、沖縄のゆったりした調べとはかなり違う。三味線のキーも高い。
武下は加計呂麻島の諸数生まれ。師匠の福島幸義から「百年に一人の唄者」との折り紙をつけられた。よく通る裏声と広いレパートリーが持ち味だ。「島唄は無数の歌詞の中からその場に合うものを選んで歌うもの。娯楽であると同時に必須の教養でもあった。若い人たちにはできるだけ多くの島唄をのみ込んでおいてほしい」という。
12日午後7時、13日同3時と7時、東京・紀尾井町の紀尾井小ホール。3000、4000円。電話03・5465・1233(アリオンチケットセンター)。