指揮者の大友直人が27日から3日間、横浜の神奈川県立音楽堂でベートーベンの九つの交響曲を連続演奏する。とりどりのコンサートがあふれている今だからこそ、「聴きごたえのあるオーソドックスな曲に、じっくり腰をすえて取り組むことが求められている」。狙いを、そう語る。
◆「第九」の新たな魅力発見
東京文化会館音楽監督のほか、東京交響楽団と京都市交響楽団の常任指揮者を務める。リハーサルにもビシッとしたスーツ姿で臨むことが多い。物腰も紳士的だ。「貴公子」という言葉がこれほど似合う日本人指揮者はそういない。
しかし、実は常に周囲をあっといわせる「アイデアの人」。先月死去した岩城宏之が、大みそかの1日だけでベートーベンの交響曲全曲を振り切る「振るマラソン」で注目を浴びたが、発端となるアイデアを出したのは大友だった。
ポップスへの関心も強く、加山雄三と東京フィルハーモニー交響楽団のジョイントコンサートを実現。世界各国からプロと若手を呼び寄せ、合宿生活をさせる国際音楽祭「ミュージック・マスターズ・コースinかずさ」の創設芸術監督でもある。
今回の連続演奏は、「難しいものこそ、若いうちにチャレンジを」という故・朝比奈隆の言葉に背中を押された。
演奏を積み重ねるうち、「第九」の新たな魅力が見えてきた。合唱付きの第4楽章に先行する三つの楽章が「複雑で難解な孤高の世界へ向かい、人を寄せ付けなくなりはじめている」ように感じるという。
「深い精神性に入っていくのと大衆から離れていくのは紙一重。ベートーベンはそんな自分に気付いたのではないか。『友よ、この音ではなく』という歌詞は、自分を大衆性につなぎとめる言葉だったのかも」
22歳でNHK交響楽団を指揮してデビュー。米国のタングルウッド音楽祭でバーンスタインの薫陶を受けた。しかし、海外で華々しいキャリアを積むのではなく、日本のオーケストラとともに歩む道を選んだ。海外の著名な演奏家たちが、日本の楽団を不当に見下す場面に数多く遭遇したのがきっかけだった。
「若手がみな自分のキャリアだけを追いはじめたら、山田一雄先生や朝比奈先生ら、多くの先人が一から築いてくれた道を誰が受け継ぐのか」。日本の楽団とどっぷりつきあい、世界に誇れる日本のクラシック文化を築く一翼になろう、と心に決めた。現在48歳。志は今も変わらず、だ。
27日は午後6時半、28日は同7時、29日は同3時から。5000〜3000円、セット券1万2000円。演奏は東京交響楽団。電話044・520・1511(楽団)。