
架空の小藩を舞台に繰り広げられる武家もの四編を収録。偶然の遭遇から、藩随一の剣客と斬り合うことになる表題作「麦屋町昼下がり」、自決した親友の遺言状をきっかけに、藩主毒殺の謎に迫っていく「山姥橋夜五ツ」のほか、「三ノ丸広場下城どき」、「榎屋敷宵の春月」からなる。
◆「麦屋町昼下がり」
不伝流の遣い手で御蔵役人の片桐敬助は、訪ねた上司の屋敷で身分違いの縁談をもちかけられる。その帰り道、抜刀した男に追われている女を目撃し、女を助けるためやむなく男を斬殺してしまう。斬った相手は敬助とは身分が違う、上士・弓削家の隠居。「舅に無体を言いかけられた」と話す女は、藩随一の剣客のうえ、様々な奇行で知られる弓削新次郎の妻だった。
「江戸詰から戻ってきたら、弓削は敬助に報復するだろう」と周囲が噂するなか、敬助は、剣の師である野口源蔵の紹介で、野口道場を破門になった天才剣士、大塚七十郎の家に通い、弓削との勝負に備える。