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漫画偏愛主義

放課後の国(西炯子)

2007年05月11日

表紙放課後の国 (西 炯子  小学館  ¥ 530)  

 初めましての方は「初めまして」、お久しぶりの方は「いつもありがとうございます」。ただの漫画読みの私が、気に入った漫画をご紹介するこのコーナー。「偏愛主義」の名前の通り、私の個人的好みによってセレクトしております。以前はアスパラクラブにて、もっと昔はアサヒ・コムにて連載しておりました。どうぞお見知りおきをよろしくお願いいたします。

 今回は私が15年以上前から読んでいる西炯子を取り上げたい。表紙の青年が胸をはだけているからといって、はやりのボーイズラブ漫画(男性同性愛をテーマにした少女漫画)ではないので、ご安心を。

 たまたま同じ班になった高校生男女6人を主人公にしたオムニバス形式で物語は進む。6人はそれぞれ人間関係を作るのがちょっと苦手なあぶれ者。数学マニアの青年あり、英語のできないバンド青年あり。ちょっと人格的に欠けたところのある人物の表現は西の得意とするところで、彼らのでこぼこ具合には笑わされつつ胸が痛くなる。

 「数学の鬼」では、数学音痴の女子生徒・あいりが受難。数学マニアの藤崎が「自分の視界に数学をナメている奴が入ってくるのが許せんのだ」と、突然押しかけ家庭教師にやってくるのだ。あまりの押しの強さに、あいりはしぶしぶ勉強を教わるが、「やっぱりできない」と逃げてしまう。最終的には勉強を続けて落第は免れ、かつ、押しかけ家庭教師は藤崎の恋のアプローチだったことが分かって、恋も実を結ぶ。

 藤崎の、相手が迷惑がるのも顧みない強引な求愛は、不器用だった我が青春時代を思い起こさせて尻がむずむずしてしまう。変人藤崎がめがねを取ったら実は美青年、という設定はお約束だが、やっぱり読者の少女たちが喜ぶから「お約束」なのよね。

 「妄想の国語」の主人公、エロ小説を書く川本もいい味を出している。川本はまじめ少女なのに隠れてエロ小説を書いて投稿する毎日。その実、恋愛経験はゼロ。そうそう、高校生のころって妄想が先走るのよねえ。いや、私の場合には主にはボーイズラブでしたが。

 あぶれ者の寄せ集めだったはずの6人はいつのまにか友情を深める。全員進学先はバラバラだ。夜の列車に乗り合わせた6人。藤崎が「また会える」と言いかけて止めたのを、川村が続ける。「会えなくても大丈夫 そういうのを『友達』っていうんじゃないのかしら」

 西は後書きで「私は友達の作り方が下手です」と告白している。ようやくそれを自分で受け入れられるようになって、この作品が生まれたのだという。そう、西の作品を読む多くの少女たちが「この作者も自分と同じような孤独を感じているのね」と感じ、孤独を和らげているに違いない。不器用なことも悪くない。友達100人なんてできなくてもいい。西作品を読むたびに、己の不器用さを肯定する力をもらえる。長く書き続けてほしい漫画家の一人だ。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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