現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事 おかめ日和(入江喜和)2007年05月25日
私の友達で、結婚以来1年ごとに1キロ体重を増やしている女性がいる。もう結婚10数年になるから、合計10キロは増えたらしい。時々ダイエットに励んでいるようだが効果は芳しくない。私としては「もう子供も産んだんだし、多少太ってたっていいじゃん」となぐさめるのだが、今時のママさんたちはやせている人ばかりだそうで、彼女はあきらめられないらしい。確かに、街を歩く子連れママさんを見ると、みんなスタイルがいいなあ。 しかし、表題作の主人公・康子はぽっちゃり、というよりも、どっしり体形。気にしてはいるが、2人の息子の育児と家事に追われてままならない。太めの女性らしいおっとりした性格の康子と家族たちの織りなす下町暮らしの日常をのんびりと描いている。康子の毎日に特別な事件は起こらない。でもそれがなんだか幸せ。何もかも満たされているわけではないけれど、日々の生活を愛(いと)おしむ康子の物語は、読んでいてこちらもなんだかほっこりする。 例えばカレーを作るのも大事業だ。鍼灸(しんきゅう)師の夫・岳太郎は頑固に「豚肉の激辛」を主張。90歳の義祖父は「鶏肉で中辛」、まだ小さい息子たちはもちろん「お星のにんじんがはいった甘口」。結局、康子は一日がかりで人数分の鍋にカレーを作り分ける。ようやく食卓にのぼった夜、無言でむさぼる男たちを前に、康子は「この静けさが男所帯の『おいしー』かな?」。こんなことで報われる。 お正月には年始のあいさつにご近所さんがきたりと、ゆるやかに周囲とつながっている様子が、なんだか昭和の雰囲気がする。康子がいつも白いエプロンなのもその一つか。康子が夫にベタ惚れで、短気で偏屈な夫のかなりむちゃな要求に対しても応えてしまうところも昭和的といえばそうなのかも。 しかし20代の私がこの本を読んでいたら「なんだ、この夫に隷属的な女は!」といらだっていただろう。例えば携帯電話。夫が嫌いなので康子は持っていなかった。友人の宮崎が「専業主婦だからってなあんでそこまでダンナの言うこときかなきゃなんないのオ!? アンタには買う権利があんの!」とたきつけてようやく購入するが、康子の夫は携帯を見つけて投げ捨ててしまう。ああムカつく! あんたが嫌いなのと妻とは別のことじゃないか! 宮崎さんだって「聞けば聞くほどムカついてぶっとばしてやりたいね おたくのダンナって」と言っているぞ。 そう、私はその宮崎さんだった派はず。でも40前になった今では「は〜そんな短気なダンナでも、あなたが好きならそれでいいんだよねえ」と思う。多くを望まず、ささやかなことに幸せを感じる康子の生活に、思わず我が身を振り返ってしまう。物質的に恵まれていてもイコール幸せ、じゃないのよね。いや、私はあんな短気な夫はいやだけどね。昔はよかった、という気はないけれど、昭和ノスタルジーに浸りたい人にはお勧めです。 プロフィール
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