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漫画偏愛主義

かわたれの街(勝田文)

2007年06月22日

表紙かわたれの街 (勝田 文  白泉社  ¥ 580)  

 ああ、ダメ男ってどうしてイイんだろうか。そう、その男がダメ人間だって、ちゃんと知ってるわ、何ができるわけでもないの、でもそれでもいいの、私は好きなの。な〜んてどうして女は思ってしまうのだろうか。「この人は私がいなくちゃダメなのよ」って思っちゃうからかなあ。本当は「私がいなくちゃダメな男は、私がいたってダメ〜」(by西炯子)なのになあ。ふと恋から冷めると「・・・本当にただのダメ男だったわ」と分かるのになあ(「ダメなところがよかった」と思うケースも多少あり)。

 表題作は典型的ダメ男に惚(ほ)れる女の子・木菜の物語。お相手は、貧乏でバツイチ、しかも別れた女房に未練たらたらの男・穂波。でも料理の腕はピカイチなので、木菜は彼が教える料理教室に通っている。こぢんまりした商店街を舞台に、のんびりと恋物語が進行する。

 穂波はダメ男なんだけど一途で正直だ。その点ではかなりイイ男かもしれない。木菜の告白を受けて、元妻と復縁を望んでいるが木菜ちゃんの好意はうれしい、と正直に返答する。元妻の妊娠を知って「腹の子が俺の子じゃなかろうがおまえもろとも面倒みてやるよ」と宣言する。普通こんな太っ腹なこと、言えないよ。いや、考えなしだからこんなに簡単に言っちゃうんだろうけどね。

 木菜の同級生で呉服屋の跡取り息子や喫茶店のお姉さんら、個性ある脇役が物語をもり立てる。あとがきを読むと作者は「なんてゆるい漫画なんだ」と自作を表現しているが、そのゆるさが心地いい。登場人物たちはみんな一生懸命で、でもそれが肩肘(ひじ)はってない。作中ではいつも時間がゆ〜るりと流れていて、読んでいると忙しい日常を忘れさせてくれる。

 この本と同時に「しゃべれどもしゃべれども」(原作・佐藤多佳子)が発売された。こちらもレトロな雰囲気とのんびりした絵柄がマッチした良作だ。

 ちなみに「かわたれ」とは、まだ薄暗い明け方を指す言葉。「彼は誰?」と問うほどの薄闇。行き倒れ寸前の穂波がこの商店街にやってきたのはそんな時刻だった。木菜の実家は豆腐屋なので朝が早い。普通の人はまだ眠っている静かな街は、いつもとはちょっと違った側面を見せる。その感じは、勝田の作品とよく似ている。描かれているのは、誰もが営んでいそうな日常なのに、なぜかあたたかく、心いやされる。それは勝田作品が、親の愛情であれ恋愛であれ「誰かは誰かに愛されている」ことを繰り返し描いているからかもしれない。そう、愛されている、あなたも、きっと私も。読んでいてそう思えてくる。のんびりとしたい一人の夜におすすめです。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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