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漫画偏愛主義

初恋の病(トジツキハジメ)

2007年07月06日

表紙初恋の病 (トジツキ ハジメ  フロンティアワークス  ¥ 590)  

 アサヒコムでの連載が始まって3カ月でとうとう本丸登場。そう、私の偏愛分野であるボーイズラブ(略称・BL)作品を取り上げたい。BLというのは、男性同性愛をテーマにした少女漫画。お嫌いな方も多いとは知っているが、このジャンルは、ほとんどの書店で平積みの定位置が決まっているほどの隆盛を誇っている。お許しいただきたい。

 アスパラクラブ時代から私の連載をお読みの方はご存じのはず。私は自称「ほのかにテツ(鉄道マニアの俗称)」、そう、鉄道が好きちょっと好き。いや、かなり好き。学生時代は青春18切符で東京〜広島を何度も往復し、シベリア鉄道にも乗ったほどだ。

これまで、テツは恋愛とは縁遠いと存在と思われていた。しかし、漫画「鉄子の旅」(小学館)が人気になったり、TBS系ドラマ「特急田中3号」では鉄道マニアが登場したりと、なんだかにわかにテツが脚光を浴びているようなのだ。

 その波はBLまでやって来たのだろうか。トジツキハジメの短編集「初恋の病」に、テツを主人公にした「列車で始まるミステリー」が収録されている。登場するのは豪華寝台特急のウエイターである曽於(そお)と、正体不明だがダンディーな鉄道マニア・手代木。曽於は見かけは今どきのカッコイイ青年だが、イベント列車の抽選に申し込むほどのマニア。手代木との掛け合いにはにやりとさせられる。

 「きみの好きな鉄道は?」と問う手代木に「阪急京都本線」と答える曽於。国外線なら「モスクワ地下鉄」とくると、「環状線コムソモーリスカヤ駅! その絢爛(けんらん)たる様は筆舌に尽くし難い!」。興味のない方には「はあ〜?」だろうが、興味のある人には「なるほどねえ」なのだ。いや、私もモスクワ地下鉄は数回乗った程度ですが。私にとっては、鉄道は時刻通りに人を運ぶというストイックな任務を背負っているところがたまらないのかしら。

 いや、テツを扱ったからトジツキを取り上げたのではない。今回の短編集の表題作「初恋の病」は夢とうつつが交差するような不思議な空間の中、初恋をひきずる男の切ない感情が描かれるし、「きつねつき」ではノスタルジックな雰囲気が全体をつつむ。激情に流されるでもなく、静かに恋愛をする登場人物たちは、読んでいて安心できる。作者自身、背伸びしないで漫画を描いているんだなあ、という感じが伝わってきて好感が持てるのだ。

 トジツキ作品は総じて、暗くてエロいか、明るくて健全か、の両極端なのだが、今回の短編集は全体を通じて明るくて読みやすい。性描写もまったくないので(過激な性描写の多いBL分野において、これは特筆すべき)、BL初心者の方にいかがだろうか。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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