現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事

漫画偏愛主義

ジジジイGGG(小山宙哉)

2007年08月03日

表紙ジジジイ-GGG (1) (小山 宙哉  講談社  ¥ 730)  

 誰だって老いるのは怖いものだろう。そういう私も40歳を前にして最近すっかり体力が落ちてきた。この梅雨時には体調を崩して3キロ体重が減ってしまった。この年でやせると顔がこけるばかりで、いいことは何もなかった。自分の親も弱ってきて「私が面倒みるのかな、ほかにいないしなあ」とどきどきしてしまう。ああ、年をとるってこわいなあ。

 そういう漠然とした老後への不安が社会にあるからだろうか。表題作はなんと、70歳のおじいちゃんが大活躍する物語なのだ。最初に盗んだのが安価なハーモニカだったことから、「ハープ」と呼ばれるようになった怪盗の正体が70歳の暁利一。生来の俊足を生かして、武器も暴力も使わずに鮮やかに盗んでみせる。

 「人が悲しむものは盗らない」というハープ。盗みに入った家は偶然にも、ハープを追う刑事の自宅だった。幼い姉妹に見つかってしまったハープは観念するが、逆に姉から「画家だった母の遺品の絵画を盗み返してきて」と頼まれる。不当に奪われた絵画は、姉妹たちの宝物。自慢の足と行動力を生かして絵画を奪い返したハープは、姉妹の心も盗んでいった。そう、彼は盗むことで、人に幸せを与えてくれるのだ。こんなジジジイ、かっこいい!

 しかし、この漫画を何度か読み返すうちに気づいた。この主人公、70歳といいながら、70歳らしいところがないのだ。俊足という設定がなければ怪盗にはなってないから、足が速いのはいいとしよう。だが、シャンと伸びた背筋、遠くを見通せる視力、多少の障害にはくじけないタフな精神と行動力。ケガだって4日で治っちゃう。人が恐れる老いの要因を一つも持ってないのだ。

 いや、その裏には、日々の訓練を欠かさないハープの姿がある。世の中には、鉄棒の大車輪ができる68歳のおじいさんもいるくらいだから、体力問題は鍛錬でクリアできるのかもしれない。物語の中では、高度成長期前の美しい海で遊んだことを懐かしむシーンや、息子とのぎくしゃくした関係に悩む大学教授を諭すなど、年輪を重ねた人物らしきこともするのはしている。だがどうにもこれが、若々しいんだな。そう思って読んでみると、利一はちょっと精神が老成しちゃった30代という設定でも問題がないような気がしてくる。

 年金問題が取りざたされ、働いても貧困という階層が出現した現代社会が不安だからこそ、こういう老人像が青年漫画誌に載るんだろうなあ。「自分は年老いても若々しくありたい、不安なくすごしていたい」と思う読者の願望の投影なんだろうなあ。そういうモデルケースなんて現実にはなかなかないからね。だから、利一が若々しくてもいいのか。うん、ちょっとしたところでもう少し老人らしさがあると、リアリティーが増すのになあ、とちょっとだけ残念だ。

powered by amazon

プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

PR情報

このページのトップに戻る