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漫画偏愛主義

GENTE(オノ・ナツメ)

2007年09月28日

表紙GENTE 1 (オノ・ナツメ  太田出版  ¥ 683)  

 もう数年前に読者様から「取り上げてみては」とご要望があったオノ・ナツメ。当時の私はオノが「basso」の筆名で描いた「クマとインテリ」(茜新社)しか読んだことがなく、あまりに力強い絵柄が肌に合わなかったので、以後オノ作品には手が伸びずにいた。そうしている間に気づけば彼女は青年誌からボーイズラブ(BL)系まで幅広く描く人気漫画家になっていた。最近になってようやくオノ作品を読んでおもしろさにびっくりしたというていたらく。私の先見性のなさにがっくりだ。読者様、申し訳ございません。 反省しつついいわけさせていただければ、私はこういうオッシャレーな漫画が苦手なのだ。外国のマンガやアートの影響が強くみられる絵柄と、外国映画を見るような大人な雰囲気やテンポ。どれもがオタクな私とかけ離れていて、作家さん本人に「え、あんたみたいなダサい人が私の漫画を読んでるの? キモ〜い」とか言われそうで。

 特に、オノ作品の多くはイタリアが舞台。おしゃれでイタリア。最強だ。だからこのコラムを書く前に雑誌「マンガ・エロティクス・エフ」(太田出版)のオノ・ナツメ特集を読んで予習したのだ。相手を知ったからといって私の「おしゃれな人が怖い」病が治るわけではないのだが。特集を読んで分かったことは、そうか、彼女は01年にイタリア留学していたのか。しかも興味の発端がイタリアの元首相を好きになってというのだから、作中で登場人物たちが時おり政治の話題をしているのもうなずける。

 表題作ではイタリア・ローマのリストランテで働く老眼鏡紳士の従業員たちのささやかな、だけれども温かな日常が描かれる。オノ作品はどれも、作品中で大事件が起こるわけではない。登場人物たちが何かしら問題や家族関係といった背景を抱えていて、それが物語の中で解きほぐされていったり、新しい展開へと発展したりする。それがなぜか印象深い。

 オノはいまは表題作のほか青年誌「IKKI」(小学館)で「さらい屋五葉」、青年誌「モーニング2」(講談社)で「Danza」を連載し、茜新社では筆名を「basso」と変えてBL系の看板作家として活躍している。いずれも微妙に絵柄を使い分けており、bassoは一番描線が太くて強いようだ。もし出会いが別の作品だったらもっと早く好きになれたのに、と悔やまれてならない。

 03年の商業デビュー以来、あっというまに売れっ子作家になったオノ。特集のインタビューでは「一番楽しいのはネーム(コンテ)作業」と答えていた。人気がでるとプレッシャーでコンテ作業がつらくなるものかと思っていたが、彼女はそうではないようだ。しかも驚くべきは、オノは32ページの作品を、ネーム1日、主線入れ1日、背景と仕上げを4日の計6日で仕上げるというのである。どうりで多産なわけだ。きっと同人誌時代のように「描いても描いても飽きなくて」という状態なのだろう。自分で選んだはずの仕事でもつらくなることのある私には、ぜひ彼女の前向きさを励みにしたい、というか「仕事ができて幸せ」というモデルケースとしてあり続けて欲しい。これは私の勝手な願いなのだが。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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