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漫画偏愛主義

35歳で独身で(秋月りす)

2007年10月12日

表紙35歳で独身で (秋月 りす  講談社  ¥ 1,000)  

 最近、長編漫画が読めないでいる。これは面白そうだ、まとまった時間がとれたら読もう、そう思っているうちにその本の存在自体を忘れてしまう。人間、40歳前になると趣味だけには生きていられないのね、というか、趣味のために睡眠時間とか体力とかを削るのをためらうようになるのね。

 だからというわけではないが、今更ながらに秋月りすである。言わずと知れた有名4コマ漫画家を取り上げるのはなんだか気後れするが、確かにいま一番私が読み返している漫画といえば、秋月りすなのだから仕方がない。体調を崩して自宅に1カ月ほどこもっていた時には、「OL進化論」(講談社)の文庫全巻を一気買いして何度も読み返した。近年とみに記憶力が低下しているので、オチを忘れて何度でも新鮮な気持ちで楽しめた。病床の友、秋月りす。

 それが今回、「OL進化論」の1シリーズ、「35歳で独身で」だけを集めて本になるというので、もう全部読んだネタかも、と思いながら買ってみた。なにしろ、1000円もするのだ。最近の本屋ときたらコミックスは全部シュリンク(ビニールカバーのこと)で覆ってあるので中身の確認もできず、レジに持って行くにはかなりためらった。結局、ほとんど私が読んでないネタだったので、一安心。

 読み返して、つくづく秋月りすの洞察力の鋭さに恐れ入った。もう秋月自身は独身でも35歳でもないというのに、なぜここまで35歳独身の気持ちに肉薄できるのか。印象深かったのは「ダンサー」だ。子持ちで働く既婚女性が「クタクタよ」と嘆くと、独身女性が「あなたはマラソンランナーみたいなものよ。いまはつらそうでも心は充実してるはずよ」となぐさめる。それに対して自分自身は「ダンサーかな」。「どんなに苦しくてもキレイに着飾って楽しげに踊らなきゃ」と答える。そう、独身だと、みすぼらしくしてるわけにはいかないって感じなのよね、あれはなぜなのかしら。単に自意識過剰なのかもしれないが。

 「『35歳で独身で』の周辺には普遍的な人生の断面というと大げさですが、甘くて塩辛くて面白いモノがたくさん埋まってる」と秋月はあとがきで書いていた。それをすくいとって見事漫画にあらわしてみる能力のすごさは、「秋月りすってやっぱりベテランなんだなあ」と思わされる。秋月りすのほのぼのファミリー漫画「おうちがいちばん」(竹書房)もいいが、やはり、切なさと「あ〜そういうことあるある」的感覚は「OL進化論」の方が一枚上手という気がする。

 私の友人は「最近は『35歳で独身で』を読むと、なんだか切ないんだよね。もう私35歳を超えちゃったよ〜とか思って」と言っていた。私もそうだけど、長いシリーズだから、登場人物たちの年齢を追い越してしまうのよね。いま笑ってこのシリーズを読んでいる若者たちよ、いつかあなたもそうなるかもしれないのよ〜〜。

 そういえば、その友人とは以前電話で大げんかになり「もう会わない! 今度会う時は、どっちかの結婚式ね!」と彼女が言うので、私は思わず「じゃあもう一生会えないの?」と返してしまった。結局、お互い忘れっぽくなったこともあり、年をとって友人が減ったこともあり、その後も何事もなかったように一緒に遊んでいるのだから、うん、年を取るってのも悪くはないわよ。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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