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漫画偏愛主義

ワーキングピュア(小山田容子)

2007年10月26日

表紙ワーキングピュア 1 (小山田 容子  講談社  ¥ 420)  

 最近になって気がついた。このコラムを始めて足かけ5年になるのだが、その間の原稿の電子データを私は保管していなかったのだ。FDやハードディスクに入れているつもりだったが、頼みのPCは一度リカバリをする事態になり、FDは何度もの引っ越しでどこかに紛れてしまった。いや、もう必要ない原稿と言われればその通りだが、自分としては最も長く続いている仕事で、200本近い原稿が紛失したとなると、それなりにショックだ。というか、自分の馬鹿さ加減にかなりあきれた。手元にあるのは印字されたものだけ。こういうところに私の無能さが現れていると思う。

 だからというわけではないが、ドラマ化もされている安野モヨコの「働きマン」(講談社)。最新刊の4巻を読んで改めて安野の漫画のうまさと、主人公の熱血さを感じた。主人公はバリバリの週刊誌記者、30歳を前に臨時デスクに就任。いや、いいんだけどね。自分の無能さに落ち込んだり、出世しそうにもない行く末をはかなんだりと、いろんなことに息切れしそうな私は「働きマン」にはなれないなあ、と思うことしきりだ。

 表題作は帯にあった「OL生活10年以上の作者が贈る一般仕事人への静かで熱いメッセージ」の文句に引かれて手に取った。とある銀行の駅前支店で一般職として働く女性たちを描いている。読んで納得。花形職業でなくとも、出世街道を歩いてなくとも、人々は立派に働き、私生活を生きている。労働に対して対価を得ることはそれだけで等しく尊い。全員が「働きマン」でなくてもいいのよね。

 5人の女性たちが主人公になるオムニバス形式で物語は進む。入社して3年目、気が強い性格で男性社員から煙たがられている土屋さん、マイペースで仕事をしてしまう福沢さん。だれもが自分の隣にいそうな人ばかり。まあ、5人のうち一人暮らしが1人だけなのは、お堅い金融機関の一般職ならではなのかな。

 私が心引かれたのは、出世コースを外されて福沢の上司になった瀧田課長だ。独身女性の福沢に向かって「(結婚するのも)仕事みたいに期限ぎりぎりになってあわてないようにな」と言ってしまう無神経さと、部下のミスをかばってしまうお人好しさ、両方がある人物として描かれている。こういう人、いるいる。そうなのよねえ、いい人なんだけれども、人間って多面体だからいい面ばかりと接せられるわけではないのよねえ。

 作者は金融機関勤続10数年の経験があるという。登場人物たちの描き方がやや平板な印象はあるが、私の知らない銀行の仕事やそこで働く人の気持ちがかいま見えておもしろい。もうひとふんばり、仕事のキツいところ、仕事絡みの人間関係のキツいところに踏み込んで欲しい気もするが。ともあれ、読後感がほんわかしているので、「働きマン」にちょっと疲れた人にはオススメだ。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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