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漫画偏愛主義

説得ゲーム(戸田誠二)

2007年11月23日

表紙説得ゲーム (戸田 誠二  宙出版  ¥ 945)  

 以前も取り上げたことのある戸田誠二。でも3年前だから時効だよねえ。と、以前もこんな書き出しを書いた覚えある。芸がなくてすみません。しかし、私は最近とみに記憶力が低下したので、以前に紹介したことも忘れて初めてのつもりで書いてしまうときがいつかきてしまいそうで怖い今日このごろだ。

 今回は近未来を舞台にしたSF短編集。とはいえ、そこでメーンに描かれるのはやはり戸田作品らしく、人間の孤独感や自己の存在への不安感だ。それは同じく孤独を抱える読者の心に優しく寄り添ってくれる。

 表題作「説得ゲーム」は、戸田らしさが端的に表れた作品だろう。自殺志願者を説得するというゲーム。制作者不明だがその完成度の高さに、ゲーム開発者である主人公・尾崎は興味を引かれる。自社の即戦力にしようと探し当てた制作者は、高校の同級生の女性だった。彼女は言う。「私試してみたのよ 仕事にも家庭にも頼らない 純粋な生きる理由っていうのが見つかるかどうか」「なかったわ」。そういって彼女は尾崎に自殺を予言する。

 ゲームに登場する自殺志願者はこうも言う。「生きるための理由はあっても 生きてることに理由なんかない」。子供がいる、仕事がある、家族がある「そうやって自分に責任をつけて 死ぬ理由を減らしているんでしょう」。戸田作品の読者ならだれもが一度は考えたことかもしれない。でも結局、制作者の女性は尾崎の熱意に打たれたのか死をまぬがれる。仕事人間で家庭を失った尾崎が、彼女の生きる気力を奮い立たせたのだ。

 ちなみに、私が生きる理由を聞かれたなら、このせりふを引用するだろう。「人は、神様がもういいと言うまで生きなくちゃいけないんだ」(by 秋里和国弐「TOMOI」)。って骨の髄までオタクですから〜。

 書き下ろしの「クバード・シンドローム」も印象深い。技術の進歩で男性の出産が可能になり、熱血営業マンの宮田が、突然妻から出産を頼まれる。出産までの宮田の心の葛藤(かっとう)がなかなか興味深い。そういえば、横隔膜に受精卵を入れると胎盤(たいばん)みたいなものができるから男性も妊娠可能なんだとどこかで聞いたことがある。それが容認される社会になったら、ジェンダーも大きく変わるだろうな、とつらつらと思った。

 しかし「クバード・・・」はいい作品なのだが、出産についてどうも一歩踏み込んだカンジがないなあ、と思っていた。あとがきを読んで少し納得。作者の戸田自身は未婚で子供なし、「クバード・・・」のコンテもずいぶん悩んだようだった。出産経験者へ取材し「人は子供を産んで一人前だと思うか」と質問して「はい」と即答されメゲる場面が出てくる。戸田自身は「子供を育てているのは親だけじゃない 文化だってそう」と自分の仕事を肯定する。

 いや、私は「働きマン」(安野モヨコ)のせりふじゃないけど、「鍛えた筋肉が違うだけよ」と思うよ。子供を産めば「親」にはなるけど、それはイコール一人前ではないよ、たぶん。仕事や人間関係で責任を背負わされて成り立つ「人間としての一人前」ってのもあると思うなあ。どうだろう。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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