現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事 3軒隣の遠い人(鈴木ツタ)2007年12月07日
以前も書いた覚えがあるが、最近とんと私の漫画レーダーの調子が悪い。本屋にあまり行けなくなったせいもあるだろうが、店頭で「これは!」という出会いがない。オタク専門店にいけばビジュアル重視の10代向け漫画ばかりが台頭していてオバサンにはついていけない。かといって一般書店の漫画コーナーは、あまりに「大人向け!」な大長編漫画ばかりだったりして手を伸ばすのをためらってしまう。 というわけで、やはり貴重なのはオタク友達からのクチコミだ。20年来の友に「最近では鈴木ツタがよかったよ」と言われ、手に取ってみた。お、これはなかなか。でも私の友達なので、やっぱりボーイズラブ(BL)漫画なのだ、お許しください。 鈴木ツタの作品は、登場人物たちがボーイズラブにありがちな「女の子の理想を固めたような男性像」ではなくて、自分の隣にもいそうな「ちょっと鬼畜入ってる」男だったり、立派に社会人としてやっているのにヌケてたりするのが好感が持てる。鬼畜を入れつつちゃんと魅力的に描けるのが鈴木ツタのいいところだろう。 表題作では、3歳年上の幼なじみ・昇に初恋をしたサラリーマン・光也がちょっと鬼畜入ってる。中学生時代、昇の泣き顔を見て「強暴な気持ち」になるし、社会人になっても「ちょっと試してみようか」程度の気持ちで同僚男性を自宅にお持ち帰りしてみたりする。結局「フラグとか条件とか揃ってるのに盛り上がってない(下が)」となっちゃうあたりがまた冷静で生身の人間っぽい。そんな光也が10年ぶりに再会を果たした昇に対してはドキドキが止まらない。なんてかわいい男だろう!とオバサンはほほえましく見守ってしまう。 時折混ざるギャグも秀逸で、言葉一つで笑わせてくれる。光也が恋の悩みを仕事場の先輩に相談すると、あまりの光也のピュアぶりに漏らした先輩の言葉が「お前 童貞の神様?」。 遊び心あふれた人なんだろうなあというのは、ほかの2冊のコミックスのカバー裏からも分かる。「hand which」(竹書房)では「私はホモが大好きです」と大書きされて名前を書く欄がある。「あかないとびら」(竹書房)では「この本を見つけた私の家族または友人へ」とタイトルがあって「私が自分で男同士の恋愛漫画が大好きと認め、自分の意思で購入しました」という選択肢を選ぶ欄がある。パソコンを使って作者自身が作ったそうだが、ここまで己を含めた読者をオトして笑わせるのって、BL系作家のなかではなかなかいないよねえ。 粗削りながらセンスをカンジさせる鈴木ツタだが、作品によって当たりはずれが大きいような気がする。今回のあとがきをよむと「オヤジ受けが書きたい」と言ったのに、担当編集者に「オヤジといっても35歳までですかねえ」とやんわり拒否されているあたり、最初のモチベーションが肝心なのかもしれない。でもそうか、少女漫画におけるオヤジって35歳くらいなのか。ということはオバサンもそのくらいってことよね、私は少女漫画の中ではオバサンにもなれないのね。ちょっと愕然(がくぜん)としたせりふだったよ。 プロフィール
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