現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事 きのう何食べた?(よしながふみ)2008年01月04日
「あ、ゲイだ」。本書を読んだ私は最初にそう思った。青年誌「モーニング」連載なのに主人公がゲイとはさすがにびっくり。でも、それが違和感なく、おそらく男性に多いだろう「ホモフォビア」(男性同性愛を激しく嫌悪する)の方々にも拒絶されないであろう作品に仕上がっている。なぜなら主人公はとびきりの料理上手で、その様子があまりにおいしそうに描かれるからだ。おいしそうな料理を見て、腹を立てる人間はそうそういないだろう。 弁護士をつとめる43歳の主人公・筧史朗は料理上手、しかもハンサム。彼の調理場面がこの漫画のメーンだ。倹約家の筧がスーパーで安い食材を吟味し、台所に立ち、同棲相手の美容師・矢吹賢二と食べる、ほぼ毎回その場面が登場するのに、決して読者を飽きさせない。二人がゲイであり、それにまつわる困難やいろいろが物語にはさまれることはあっても、それはあくまでも日常の一場面として描かれている。 よしながはこれまでも漫画の中にたびたび料理上手な人を登場させてきたが、今回の筧は、特に家庭料理が上手なのが憎らしい。普通の家庭ならたいてい揃っている材料で作れるような料理がレシピ紹介とともに展開されて、「ああ、私もこんな料理が食べたい」と思わされてしまう。なにしろ料理が苦手な私でさえも、触発されてこの本に登場する「イワシの梅煮」を作ってしまったくらいだ。ちなみに1度目に作ったときは自分が作ったとは思えないほどおいしかった。調子に乗ってさらにもう一度作った時には、ふと料理中に目を離してしまいイワシは黒こげ、鍋を一つダメにした。私は料理に向いてない。きっとダメにされたイワシたちも私のことが嫌いだろう。 もちろん料理だけではない、人情の機微や筧の仕事ぶりも盛り込まれている。例えば筧がDV被害男性の相談を受ける様子は、よしながらしい細かな気配りが行き届いていて、さすがと思わされた。傷だらけで連れてこられた被害男性を前に、筧は「男なのにだらしない」とは決して思わない。また、男性が「帰らないと女房にもっと殴られる」と口にする、この精神状況はまさしくDV被害者特有のものなのだが、これをさらりと言わせるよしながの感性に感嘆する。よしながは法律家を目指していたというが、それだけではない、社会のできごとを的確に捉える能力がよしながは高いのだなあ、とつくづく思う。よしなが自身はまだ30代半ばなのに、一世代上の男性を主人公にして彼の心理をリアルに描けるのもその現れだろう。 関係ないが、私は2年前に突然発症した成人アトピーのために、特定の食材を食べられない体になってしまった。ああ、おいしい料理を食べたいが食べられないというこの矛盾。せめて目で楽しむためにも、おいしい料理を作り続けてくれ、筧! プロフィール
PR情報この記事の関連情報漫画偏愛主義 バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり どらく
鮮明フル画面
一覧企画特集
ショッピング特集朝日新聞社から |