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漫画偏愛主義

恋の心に黒い羽(ヤマシタトモコ)

2008年02月01日

表紙恋の心に黒い羽根 (ヤマシタ トモコ  ソフトライン 東京漫画社  ¥ 650)  

 「あ〜恋がした〜い」。ヤマシタトモコの前作「タッチ・ミー・アゲイン」(リブレ出版)を読んだとき強烈にそう思った。主人公たちが猛烈に恋をしていて、それがもう血を吐くほどの熱烈さなのだ。彼らの熱気に当てられて、40歳にもなろうというこの私がそんな気持ちにさせられてしまった。これはすごいことだ。しかし、ボーイズラブ(BL)コミックでそんな気持ちになるって、いいんだか悪いんだか。

 デビューコミック「食いもの処明楽」(東京漫画社)でBL読者たちに大注目をあびたこの作者。洒脱(しゃだつ)な絵柄と卓越したネームセンスが持ち味なのだが、3冊目のコミックスである本作も期待を裏切らない。カラーの違う6作品が収められており、それぞれがとても印象深い。

 表題作の「恋の心に黒い羽」は、せりふ回しの上手(うま)さが特にあらわれた作品だ。極度のマゾ体質の二神は、同僚の中頭に惚(ほ)れている。だが中頭は同性愛がどうとか言う以前に、二神のドMの性癖が受け入れられない。二神がこう懺悔(ざんげ)する。「君のことを本当に純粋に好きなのに欲情する (中略)ひどくいじめられたいなんて 性癖がおれの純粋さのジャマをする 心に生えた黒い羽だ」

 二神の心情が、せりふや行動で丁寧にかつ的確に表現されているので、マゾでもサドでもないはずの私が、ド変態の二神に共感できてしまう。その一方で天然S体質の中頭の気持ちも分かるようになっているのだから、本当にヤマシタの言葉の力はすごい。ラスト近くの二人のやりとりは必見だ。決して関係が悪くはないはずの二人がなぜ分かり合えないのか、お互いが気持ちをぶつけあう。抜群のせりふ回しで緊迫感とやるせなさが伝わってくる。

 そうはいっても基本はコメディータッチなので、笑える場面がちりばめられている。折り込みの自己紹介文に、ヤマシタのギャグセンスが感じ取れる。何しろ「一生に一度は本気で言ってみたいセリフ 『さあパーティーのはじまりだ! 乾杯!』」だそうだ。そうだね、言ってみたいよ、考えたこともなかったけど。そして私は数え切れないくらい読み返した後に、ようやくカラー口絵のギャグに気づいた。本が大好きな男の子が花を抱いている絵柄の上に、小さく「夏の文庫フェア1人開催中」。あ〜確か夏の文庫フェアは、こういう感じのポスターだよねえ。どうしてここまで細かなギャグをするかなあ。

 人気急上昇中のヤマシタ。最近、いろいろなBL雑誌でみかけるようになったが、ぜひこのテンションとセンスを維持していって欲しい。

 どうでもいいが、最近の漫画家はカタカナ名前が多すぎないか? BLにおいてはトジツキハジメとかヤマダサクラコとか、「みんな似とるんじゃ〜」と言いたくなる。私は名前を漢字の字面で覚えるようにしていて、加えて最近とみに記憶力が落ちてきている。本屋に行って望む漫画を見つけられずに検索機で打ち込むときに、名前を思い出せず非常に困る。印象的で、せめて漢字が混ざった名前にして欲しいものなのだが、これって年寄りの発想なのかしらん。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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