現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事 3月のライオン(羽海野チカ)2008年03月14日
プロデビュー前から私が熱烈に好きだった羽海野チカ。「ハチミツとクローバー」(略称ハチクロ)の大ヒット後、私は今後の行く末をまるでおばあちゃんのような気持ちで見守っていた。「これだけいきなり人気がでちゃって、次の作品へのプレッシャーは相当だろうに」。新作は青年誌での連載、しかもプロ棋士の少年が主人公だと聞いていたから、正直言って不安だった。 ふたをあけてみると不安は杞憂(きゆう)に終わった。孤独や切なさといった心情を細やかにすくい取る羽海野らしさはそのままに、男性読者にも十分アピールする秀作に仕上がっていた。少女漫画らしい絵柄が青年誌にマッチするかどうかと思っていたが、デッサン力のある羽海野だけに心配は無用だった。そもそも、最近は漫画もボーダーレスで青年誌でもいろんな絵柄があるんだものなあ。 17歳の桐山零は家族を事故で失い、プロ棋士の養父に育てられるもののその家庭すら失う。孤独に生きる少年の成長を描いている。こう書くと暗い漫画に思えそうだが、そこはやっぱり羽海野作品。零を一方的にライバル視しつつ「親友だろ」と言い張る二階堂や、近所に住む世話好きな美人3姉妹ら、愛すべき面々が零を取り巻き、物語を明るくしている。海の底に沈むような零の孤独に光を差す彼らとの交流は、読んでいて心が温かくなる。もちろん将棋を知らなくても大丈夫。ときに挿入される「月下の棋士」をパロったと思われるギャグにもにやりとさせられる。零の心情描写を物語の主軸にしながらも、軽妙なギャグが差し挟まれる、その配分は絶妙だ。 「3月のライオン」は、「March comes in like a lion」、3月はライオンのように荒々しくやってくる、ということわざからとっている。春風の荒々しさが、堅く凍った零の心を溶かしていってほしいと思う。 ところで、羽海野がハチクロであっという間に人気作家の仲間入りをしてしまったことを、私はなんだか少々寂しく思っている。「羽海野さんはついこの前まで某ボーイズラブ雑誌で読者投稿欄のカットを描いていたというのに!」(未確認だが、絵柄から見るに間違いないと思われる)などとつい思ってしまう。「私だけが知っているのよ、この人の魅力」って優越感だったのだろうか。物語を純粋に楽しむためにも、ちんけな女オタクの私の無意味な独占欲はとっとと捨てねばならないなあ。 プロフィール
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