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漫画偏愛主義

そこをなんとか(麻生みこと・監修片瀬小波)

2008年03月28日

表紙そこをなんとか 1
麻生 みこと
 (白泉社  ¥ 580)

 知人で相続争いに巻き込まれている人がいる。億を超える遺産をめぐって、血を分けた兄弟がまさしく「骨肉の争い」をしているという。調停中なのだが、ときには「あいつ、裁判所に来る途中でポックリ死ねばいいのに」という発言まで飛び出る始末。しかし、過去の因縁から自分の台所事情までをさらけだして戦う様子は、他人からすれば実におもしろい。加えて、その知人が調停のために依頼した弁護士は、隠し財産があるかどうか問い合わせた各金融機関からの回答文書を読み違えて「財産なし」と答えるなど、驚くほどのザルな仕事ぶり。でもその話も、傍観者の私としては「おもしろいなあ」なのだ。調停をめぐるガチンコ勝負の人間ドラマがそこにはある。

 というわけで、弁護士モノは漫画素材にもうってつけなのだろう。最近では青年誌で法律漫画が多く登場している。ところが本作は珍しくレディース誌掲載。雑誌「メロディー」に初登場したころから目をつけていたので、本紙読書欄「南信長コミックガイド」ですでに取り上げられてしまったが、私も紹介したい。

 主人公の改世楽子はキャバクラでバイトしながら司法試験に合格。高収入を夢見るも、司法改革による空前の買い手市場のために零細事務所に就職、そこにはクールな先輩弁護士と儲けを気にしないお気楽所長がいた。彼らの指導のもと、楽子は傷害事件や遺産相続といった案件をこなしていく。

 こう書くとお堅いようだが、そこはコメディー。明るい性格の楽子は、持ち前のタフさで、傷害事件を起こしたチンピラ青年の心を開かせ、遺産争いに疲れたおばあちゃんの心を癒していく。

 「弁護士の仕事って(中略)そこをなんとかそこをなんとかって頼んだりなだめたりそんなことの方が大半なんですね」。迷いながら仕事をこなしていく楽子のつぶやきがいとおしい。

 弁護士の監修がついているだけに枠外にある法律豆知識もタメになる。作者が傍聴した様子を描いたエッセー「ぶらり傍聴日記」も出色のでき。おめめぱっちりの少女漫画らしい絵柄の表紙に、手に取るのをためらう殿方もいるかもしれない。しかしその躊躇を飛び越えるだけの価値のある漫画だ。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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