現在位置:asahi.com>文化・芸能>コラム>漫画偏愛主義> 記事 愛の深さは膝くらい(依田沙江美)2008年04月25日
いま私がもっとも愛しているボーイズラブ漫画家の一人、依田沙江美の久々の新刊である。紹介するにあたって愛情があふれて暑苦しい文章になるだろうが、みなさまにはご容赦いただきたい。何しろこのコラムは「偏愛主義」なのだから。ついでに言うとネタバレありなのでご用心。 高校の書道部員・昴は、部の顧問で代用教員の石倉を目の敵にしている。身に覚えのない石倉は当惑するばかりなのだが、実は昴は石倉の過去の奔放な女性遍歴を知って許せないでいたらしい。ことあるごとに石倉に反発する昴だが、石倉はある意味純粋な昴がだんだん可愛く思えてくる。一歩進んでは二歩下がるような、ゆっくりしたラブストーリーだ。帯には「ツンデレ高校生×教師」とあるのだが、そうか、これがツンデレなのね。いつもはツンツン冷たいのに、ふとした拍子にとっても愛情深い。なるほど、「ツンデレ」にあまり萌えがなかった私は、ようやくこれでストンと胸に落ちたよ。 よい意味で節度のある漫画を書き続けていた依田が、高校生と教師との恋愛をどう描くのかと私は疑問に思っていたが、ある意味期待通りだった。結局、連載が終わっても二人は清らかな関係なのである。 合意のもとでホテルに行くが、結局何事もなく朝を迎える。朝食のパンにジャムを塗りたくる昴をみた石倉のモノローグがいい。「そうか 俺がもう子供じゃないんだな 昴はまだまだ糖分が必要な成長期で 毎日夕飯までには家に帰りたいんだ」 卒業までは手を出さないと決めた石倉が思う。「君が大人になった時のことを考えてしまう 今の君の好奇心を満たしてあげるより その時に軽蔑されたくない」。どうですか、これでこそ大人の態度でしょう。相手は生徒なのだから、長く生きている教師の方が圧倒的優位に関係をすすめられるのは当然のこと。教師×生徒の官能少女漫画やボーイズラブ漫画があふれているなかで、この展開は瞠目に値する。依田はこうした大人の態度がとれる人物を描くのが非常にうまい。そして、表面は常識をまとっていながら、内面ではどろりとした劣情を抱いているさまを、非常に突き放して表現できるのだ。まあ、今後さらに連載は続くようなので、この禁欲もどうなることやら、なのだが。 実は、私がこの本の発売を知ったのは、入院中の親族に泊まり込みで付き添いしているときだった。おたく友達からのメールに「もう本屋に並んでるよ〜」とあった。買いに行きたくても行けない私はもんどりうって苦しんだ。もちろん退院した日、その足で本屋に買いに走った。そして、不運にもその親族は退院翌日に容態急変して再入院となったのだが、そのときにも付き添った私が入院手続きを済ませてまっさきにしたことは、親族が寝たすきをついて病院の隣にある本屋に行き、この本を買ったことだった。だから今、私の手元にこの本は2冊ある。まさしく漫画バカ、というよりも依田バカ。依田本人がこれを読んだらドン引きすること間違いなしなのだろうが、仕方ない、こらえて欲しい。作品を発表するということは、批判されるだけでなく、過剰に愛される危険性も含んでいるのだから。依田さん、これからも私に過剰に愛され続けてください。 プロフィール
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