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漫画偏愛主義

ヘタリア(日丸屋秀和)

2008年06月06日

表紙ヘタリア Axis Powers
日丸屋 秀和
 (幻冬舎コミックス  ¥ 1,050)

 ネット漫画として3000万ヒットを誇り、書籍になれば発売1カ月で重版10万部。いまさら取り上げるのもおこがましいくらいの大ヒット作である。前代未聞、国を擬人化したコメディーなのだ。メディアにも多々登場し、いろいろな人にいろいろなご意見があるようだが、議論になるという点でこの作品は傑作なんだろうと思う。ご存じなかった方も、ぜひ手にとって既読の方々と意見を戦わせてみていただきたい。

 どんな漫画?と聞かれると、「国を擬人化して、イタリアがヘタレな主人公で、ドイツは堅物の親友、って感じのコメディーなの」としか言いようがないのだが、なんだかそれも的を射てないような気がする。「あ〜イギリス人ってこんな性格だよねえ」「ああ、そういうのってロシア的だよねえ」と思われている国々の特性をそのままキャラクターにして、戦争したり友達になったりする様子を史実に基づいて描いたドタバタコメディーなのだ。コタツを囲んで1940年の日独伊三国同盟が結ばれたり、アメリカの独立戦争がシリアスっぽく描かれていたりと、実は歴史教材としてもなかなかお役立ちなのである。

 作者はアメリカ・ニューヨークの大学でデザインを学ぶ22歳の男性だという。絵柄と登場人物の男性の多さから、てっきり作者は女性だと思っていたよ。あとがきによると、ニューヨークで各人種のおもしろさを知り、調べているうちにエスニックジョーク系のサイトに行き当たり、この作品の元ができあがったのだという。

 主に描かれるイタリアは、女の子好きで、戦争の準備に白旗を作っていたりとちょっぴりお間抜け。召使いになっても「ご飯はパスタになりますか?」といつも食べ物のことを考えている。悪友・ドイツはきまじめだが、なぜかイタリアとは腐れ縁で、面倒を見る羽目に。三国同盟の一翼を担う日本はというと、得意な言葉は「善処します」「私はアメリカさんと同じでいいです」、趣味は空気を読んで発言を慎むこと、という内向的な青年として描かれる。

 国民性のあらわれ方が的確で、笑いのつぼをつく。確かにドイツ人はとっても堅物、以前私がタイのスキューバダイビングのツアーでドイツ人と一緒になったときに、彼らは一日6回も潜る計画を立て、律儀にそれを実行していた。普通、1日4回も潜れば上等だというのに。また、イタリア人のツアーバスに同乗したときには、トイレ休憩のたびに彼らは「ご飯はまだかい? 俺たちは腹が減ったぜ」とガイドをせっついていた。各国の性格がよく現れているのは、人種のるつぼといわれるニューヨークで暮らす作者の体験が生きているのだろう。

 全体的に線が粗く、コマ割がフリーハンド、などなど、絵柄の個性が強いのだが、そこは読んでいくうちに慣れるはず。残念なことに、編集が下手で、章ごとに時代が変わったり、場所や相関関係が変わったりすることへの説明が不十分で読みにくい点があるのだが、それを乗り越えれば読み応えは十分だ。編集については次巻で改善を望みたい。ついでにいうと、本当に本当に世界史オンチの私としては、18世紀のオーストリア継承戦争を描いた「夜明けのカオス」は、登場人物が多すぎることもあって、正直言って半分も理解できませんでした。すんません、頭悪くて。

 しかし、地理・歴史オンチの私がこの本を読んで、それぞれの国や歴史背景に興味を持てるようになったのは最大の利点だ。これを読めば、今後、世界ニュースを聞くたびにニヤリとできること間違いなし。表紙を見て「オタク絵じゃん」と一度は素通りしてしまった私だが、今はその不明を恥じている。みなさんも素通りせずにぜひどうぞ。

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プロフィール

松尾 慈子(まつお・しげこ)
1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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