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トラウマ解放、幻想的に 小川洋子の小説、仏で映画化

2006年09月19日

 作家小川洋子の小説をフランスの女性監督が映画化した「薬指の標本」が23日から、東京・渋谷のユーロスペースで公開される。忘れたい過去の痕跡を「標本」に封印することで解放される、女性の姿を描く。同名の原作同様、幻想的な風合いのある佳品だ。来日したディアーヌ・ベルトラン監督に聞いた。

 数年前、監督の友人が電車に乗り遅れ、駅でふと買ってみたのが「薬指の標本」だったという。その友人に薦められ、「映像のイメージがすぐにわき、読み終わると同時に映画にしたいと思った」。

 飲料工場で働くイリス(オルガ・キュリレンコ)は作業中、割れた瓶で薬指の皮を切り落とす。それを機に退職し、旅に出る。行き着いた町で、「悩みの種」を標本にする男(マルク・バルベ)と出会い、不思議な標本作製を手伝うことになる。

 「悩みの種」は様々だ。家族を火事で失った少女は焼け跡に生えたキノコを、靴磨きの男は大切に飼っていた文鳥の骨を、中年の女性は昔の恋人から贈られた曲の楽譜を標本にして欲しい、とやって来る。

 「身体や心の一部を失うことで、生き方が変わってしまう。心の傷自体は治るわけではなく、欠落感やトラウマ、コンプレックスから解放されるまでの軌跡を描いた」と語る。

 薬指の欠落感を、イリスは愛で埋め合わせようとする。雇い主の標本技師に心奪われ、彼から贈られた、ぴったりのサイズの靴をはき続け、進んで拘束されることを望む。だが、標本作りを頼んでくる、他の女性への嫉妬(しっと)が抑えられない。あげく、あるトラウマの源を標本にしてくれるよう、彼に頼む。

 「自らの醜い、影の部分を他人に差し出す行為は、自分をささげものとして差し出すことと同じ。その怖さと、自分を投げ出すことで解放される姿を、イリスの心が少女から大人へと脱皮する姿と重ねた」

 人物や場面に多少の創作を加えたが、あとは、ほぼ忠実に原作を映画化している。

 「ゆったりと流れるような間(ま)を大切にする小川さんのテンポは、私のリズムに合う。浮遊する感覚で人の心の揺れを映し出したかった」と話した。

 順次各地で。

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