現在位置:asahi.com>文化・芸能>芸能>映画> 記事 カンヌ出品作「殯の森」 河瀬監督、節目の挑戦2007年05月24日14時56分 第60回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門の上映が大詰めを迎えている。折り返し時点では、パルムドール監督のコーエン兄弟とコンペ初参加のルーマニアの俊英クリスティアン・ムンギウの新作が一頭地を抜く評価を集める。27日にはコンペ上映の最後を飾り河瀬直美監督の「殯(もがり)の森」が登場する。「萌の朱雀」でカンヌのカメラドール(新人監督賞)を受賞して10年。節目の年の出品となった。
03年の「沙羅双樹」に続くコンペ出品作の「殯の森」は、監督が暮らす奈良市郊外が舞台。妻の墓参に出かけた認知症の老人と介護者の女性が、森の中で道に迷う。老人は33年前に亡くした妻が忘れられず、女性は事故で子供を失ったばかり。喪失感の中で暮らす2人が、深い森をさまよいながら生きる希望を見いだしていく様を描く。 前作の完成後に監督の身辺に訪れた変化が、作品に色濃く投影されている。育ての親である祖母(92)が認知症になったこと。3年前に長男を生み、母になったこと。介護と育児に追われるなか、「映画を撮りたい」という思いを募らせた4年間だったという。 「こちらのペースで撮れるよう自分でプロデューサーも兼ね、子連れでフランスの製作会社に出資交渉にも出かけた。コンペ出品以上に、乗り越えてきたものが財産になったのがうれしい」 出品決定を知らせるメールが届いたのは4月19日。夫と2人で手を取って泣いた。「それを見つけた息子が『けんかしちゃダメ』と割り込んできて、朝から親子で泣き笑い。あきらめへんで、ほんまよかった」 自然の懐に抱かれた喪失と回復の物語は、デビュー作の「萌の朱雀」とも通底する。ヒロインのグループホーム職員を演じる尾野真千子は、「萌の朱雀」の主人公の少女。老人役のうだしげきは、監督の活動を支援してきた奈良市の古書店主。この10年の様々な出会いが、作品を膨らませている。 「デビュー作がカンヌで評価された後、実は空虚感に悩んだ。それまで個人でコツコツやってきたことが、ポーンと別次元に放り出されたような感じ。心のすきまを埋めるようにした結婚も長くは続かなくて。そんな経験があるから、自分の足元を見てステップアップすることの大切さを痛切に感じています」 「殯の森」は6月23日から東京・渋谷のシネマ・アンジェリカで公開。同月16日からは河瀬監督が自らの出産を記録した「垂乳女(たらちめ)」などの特集上映も。7月7日から大阪のシネ・ヌーヴォでも公開する。
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