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カンヌ映画祭を振り返って〈下〉

2007年05月30日11時45分

 今年のカンヌのコンペティション部門の出品監督は、全員が戦後生まれ。受賞者の大半を30代が占めた。一方、ベテラン監督たちは第60回を記念して製作された短編集「それぞれのシネマ」で円熟の技を見せた。

写真「それぞれのシネマ」の記者会見で、笑顔を交わすジェーン・カンピオン(前列左)と北野武

 コーエン、ダルデンヌの兄弟監督2組を含む35人の映画監督が「映画館」をテーマに33本の短編を撮り下ろした。20日の公式上映は目玉イベントに位置づけられ、ほとんどの監督が出席した。記念式典につきものの演説はなく、壇上の監督たちを紹介するとすぐに上映が始まる。映画を見ることで映画祭を祝う、粋な趣向だった。

 持ち時間はひとり3分間。短い時間だが、逆にそれぞれの個性の違いが際立った。

 工場の出口の映画館で工員たちにリュミエールの「工場の出口」を見せたアキ・カウリスマキ。98歳のマノエル・ド・オリベイラは、フルシチョフとローマ法王の意外な「同志関係」を無声映画の喜劇に仕立てた。コーエン兄弟の映画館では、ルノワールの「ゲームの規則」とトルコ人監督の芸術映画を上映中。観客のカウボーイはどちらを見るべきか悩みだす。

 最も客席をわかせたのはウォルター・サレスの「カンヌから8944キロ」だった。ブラジルの古い映画館の前で2人組のミュージシャンが猛烈な早口でカンヌ礼賛のラップを繰り広げる。演奏を終えた2人は「でも、カンヌってどこよ」「さあ。どっかの寂れた漁港だろ」。上映翌日の地元紙はこれを33本の中のパルムドールに選んだ。

 北野武の「素晴らしき休日」も好評だった。野原にぽつんと立つ古い映画館に、モロ師岡演じる中年男が自転車をこいでやってくる。「農業1枚」と入場券を買うベタなギャグも大受け。北野監督演じる映写技師がミスするたびに会場がわいた。

 監督たちも、自分以外の作品を見るのは公式上映が初めてだった。中国の陳凱歌と張芸謀はどちらも野外上映にはしゃぐ子供を描いていた。盲目の観客を扱った作品も何本か。観客の反応の違いも肌で感じられ、監督にとってはコンペ以上に試練の場だったかもしれない。

 ブレッソン、ドライヤー、フェリーニ、ゴダールなど、作り手たちに影響を与えた様々な名作も引用された。いまは廃虚となった映画館の往年の華やぎを情感豊かに描いた侯孝賢をはじめ、自らの映画館体験を題材にしたものも目立った。

 欧米ではアート系映画の市場が映画館からDVDに比重を移しつつあるが、「DVD」がお題ではこんな短編集は成立しないだろう。様々な人が大スクリーンで同じ映画を見る体験は別格なのだと改めて感じさせた。

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