現在位置:asahi.com>文化・芸能>芸能>映画> 記事 「既存の映画ぶっ壊す」 北野と松本、スクリーンで激突2007年06月14日12時01分 北野武と松本人志――日本の笑いをリードしてきた2人の異才がメガホンを取ったコメディー映画がそろって公開されている。カンヌ国際映画祭が世界の名匠35人に委嘱した短編集に日本から唯一選ばれた北野。「武さんをリスペクトしている。だから勝ちたい」という松本。それぞれが目指すところはくしくも同じ、「既存の映画をぶっこわす」ことだという。
◆自虐ギャグで現状に皮肉も 北野武監督の長編第13作「監督・ばんざい!」は、スランプの映画監督が主人公。得意の暴力映画を封印して新たなジャンルに挑戦してみたものの失敗ばかり、という自虐ギャグが、やがてあらぬ方向へと暴走する。 前作の「TAKESHIS’」でもタレントとしての自分を主人公に据え、その内面世界をえぐった。「前のは鬱(うつ)の極みみたいな映画だったけど、今回は鬱が酒飲んで暴れてるうちにハイになった感じ。自分の中では『ソナチネ』と並ぶくらいテンションを上げて撮った」という。 「あれもダメ」「これもダメ」。迷える監督は、様々な映画を撮り散らかす。昭和30年代の家族ドラマ、Jホラーに時代劇、小津安二郎調にも挑戦する。 「自分ではやりたくない、できない映画を登場させた」と監督。「売れ線」を狙ってしくじる姿で笑わせると同時に、活況と言われる日本映画の現状に対する皮肉もこめた。 「最近の映画はタイトルを聞いただけで中身が分かるものばかり。ファストフードみたいなもんで、まずくもないけど、特別うまいわけでもない。予想通りの展開、予想通りの感動。そんなものを与えられて喜んでるんだから情けない。なんでこうなっちゃったのかと思うよね」 ヒット路線にけたぐりをかまし、過去の自作を笑い飛ばす。「今までの自分を全部チャラにして、焼き払った感じ。後から考えて、おれの映画が変わる分岐点はこれだったと言われる映画になったと思う」。退路も進路もふさぎ、「世界のキタノ」はどこを目指すのか。ヒントは「ピカソのキュービスム」だという。 「時間軸をバラバラにして、見る人がストーリーを自分で作るような映画、考えさせるけど映像美はすごいっていう映画を撮りたい。興行的な成功はないかもしれないけれど、この先そう何本も撮るわけじゃない。そっちの方向に行くしかないんだろうな」 ◆疎まれる主人公、自分を投影 雑誌に映画評を連載するなど、かねてから映画に強い関心を見せてきた松本人志。「今まで見たことのない映画を見せたい」と挑んだ初監督作「大日本人」は、カンヌ国際映画祭の監督週間で披露するまで内容を一切秘密にしていた。 「隠すつもりもなかったけれど、僕自身、映画は白紙の状態で見たい方なので。隠密に動く形になって、撮影中に面白いことがあっても人に言えなかったのはつらかった」 初監督の話が持ち上がったのは5年前。「みんなが映画だと考えているものを壊してやろうとまず思い、変身ヒーローものという路線が自然に決まった。コントでもよく使うネタ。僕の中に何かあるんでしょうね」と63年生まれのウルトラマン世代は振り返る。 主人公の「大佐藤」も自ら演じた。有事になると巨大ヒーローに変身して戦う運命を担った一家の6代目。その地味で殺伐とした日常を追ったドキュメンタリー仕立ての映像と、破天荒な特撮バトルが交互に描かれ、日本社会やメディアに対するシニカルな批評が随所に顔をのぞかせる。 「政治ネタは、興味があったことをスパイスとして使った。ドキュメンタリーの場面はアドリブ。自分でカットをかけられるので、生理的に気持ちのいい間が取れた」 体を張って日本の平和を守っているのに、大佐藤は世間に疎まれる。報われないヒーロー像は、自分を投影したものだという。 「ダウンタウンのいい話の記事には浜田(雅功)の写真が出るのに、悪い話のときは僕一人だったりする。……なんでやろ。浮かばれない、という思いは常にありますね」 繊細なヒーローは、カンヌの上映会場でも緊張の連続だった。「お笑いだから、瞬時に判定が下る。いろんな反応を見たかったけど、とても身が持たない」。だが、身を縮めながらも手応えは感じた様子。「次からは『また撮ってんねん』って言いやすくなるな」と笑顔を浮かべた。 PR情報 |