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ベネチア、また中華旋風 今年の映画祭を振り返って

2007年09月12日11時10分

 8日閉幕したイタリアの第64回ベネチア国際映画祭は、またも中華旋風が吹いた。台湾出身のアン・リー監督が「ラスト、コーション」でコンペティション部門の頂点・金獅子賞を受け、昨年に金獅子を獲得した中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督は新作「無用」が、新しい潮流の作品を集めたオリゾンティ部門のドキュメンタリー賞に選ばれた。また、中国の抗議で会場に掲げた台湾の旗が降ろされるハプニングがあるなど、政治的にも台風の目だった。

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金獅子賞の「ラスト、コーション」から

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オリゾンティ部門ドキュメンタリー賞の「無用」から

 今は米国で暮らすアン・リー監督は05年の「ブロークバック・マウンテン」に続き、2度目の金獅子賞。3年連続で中国系の監督の作品が金獅子賞となった。

 「ラスト、コーション」は戦時中の上海などが舞台。レジスタンス運動に入った学生仲間への恋心からスパイとなった女が、日本軍のための組織で働く男を殺そうと色仕掛けで近づくが、関係が深まり、別の感情が芽生える。トニー・レオンと新人タン・ウェイの濃厚な性描写も話題となった。

 審査委員長の中国人監督の張芸謀(チャン・イーモウ)は「パーフェクトな映画」と絶賛。会見ではアン・リー監督と並んで笑顔を見せ、中国の監督が台湾出身の監督に最高賞を与え、たたえあう格好だった。ただ、授賞式の8日朝に地元紙が、中国側の抗議で、映画祭の会場で台湾の旗が降ろされたことを報道し、授賞式のプレゼンターまでがそのことにふれた。

 映画祭ディレクターのマルコ・ミュレールの説明は「台湾の旗には、中国側から毎回のように抗議があり、そのたびに降ろしてきた。国際的に国として認められていない状況で、正式に抗議があれば『国旗』は降ろさざるをえない」。

 89年、台湾の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督「悲情城市」の金獅子賞受賞時も同じことが起き、「芸術的な価値と政治とは次元が違う」と説明した。

 同ディレクターは屈指のアジア映画通。「中国を含めアジア映画が元気なのは、経済的な発展を含め刺激的な出来事が日々起きているから」と分析する。

 米国に長く暮らすアン・リー監督の作品は、中国映画の活況を必ずしも象徴するものではないが、賈監督の「無用」は、90年代以降に社会的、経済的に激変した中国の状況が生んだドキュメンタリーだった。

 「世界の工場」として多くの製品を生み出す中国の服飾産業の現在を、ファッションブランドの「無用」を作りあげた女性や、修理が中心の小さな洋服店など三つの視点で切り取る。ブランドを支えるまでに成熟した中国経済と、経済的格差の広がりも描き込んだ。

 こうした経済・社会的な格差を描いた映画は、中国作品以外でも支持された。審査員特別賞などを受けたアブデラティフ・クシシュ監督の「ザ・シークレット・オブ・ザ・グレイン」は、フランスに移住したアラブ系の家族の物語。60歳で造船所の仕事を失った男が船上レストランを開こうとし、家族が協力していく。脚本賞を受けた英国のケン・ローチ監督の「イッツ・ア・フリー・ワールド…」も、不法就労など移民の生活苦を背景に、人材あっせん業を営むことになった女性の苦悩を描いた。

 グローバリゼーションのひずみを描いた映画とともに、イラク戦争が題材の2本も注目された。米国のブライアン・デ・パルマ監督が銀獅子賞を受けた「リダクテッド」は、米兵による実際のレイプ殺人をもとに人間性や希望が奪われ、追い込まれる兵士を描いた。

 また、地元紙に、賞を逸したのが納得できないと書かれたのが「イン・ザ・バレー・オブ・エラ」。イラク戦争の帰還兵が姿を消し、その父親が彼を捜す物語。捜索の過程で、戦争が兵士の心に及ぼした傷と後遺症が浮かんでくる。イラク戦争が題材の作品が、次第に内容、手法ともに成熟してきたのを感じさせた。

 「チェチェンが我々にとってのイラクだ」と述べたロシアのニキータ・ミハルコフ監督。彼の「12」は、「十二人の怒れる男」の構造を生かした陪審員劇で、殺人容疑のかかった少年をチェチェン出身と設定し、物語に現在性を与えた。

 一方、意外な受賞と受け止められたのが「ジェシー・ジェームス暗殺」のブラッド・ピットの男優賞。地元紙が「退屈で長すぎる」と酷評した作品で、記者団からブーイングも起きた。張監督は授賞理由を「素晴らしい演技。新しいことをするリスクを恐れないチャレンジ精神」と説明したが、マイケル・ケイン、ジュード・ロー主演の「スルース」(ケネス・ブラナー監督)やジョージ・クルーニー主演の「マイケル・クレイトン」(トニー・ギルロイ監督)など力作があっただけに、説得力のある説明ではなかった。

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