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「ぐるりのこと。」橋口亮輔監督に聞く

2008年06月03日14時47分

 橋口亮輔監督の新作「ぐるりのこと。」が7日から全国公開される。一組の夫婦が積み重ねた10年の歳月を、バブル後の社会の中で映しとった、静かな愛の物語。自身のうつ体験など「絶妙のタイミングで起きた体験や出会いが、ぐるりとつながって生まれた」という。(野波健祐)

■夫婦の「事件」静かに紡ぐ

 ゲイカップルと1人の女性の関係を描き、多くの映画賞を受けた「ハッシュ!」から6年、橋口監督が取り組んだのは夫婦の物語だった。

 「前作は価値観の異なる者同士がつながるまでの話。じゃあその後、人はどうなるのか、と思ったときに浮かんだのが、ずっと2人でいる夫婦の姿でした」

 女にだらしなく、どこか頼りない夫カナオ(リリー・フランキー)と、きちょうめんでしっかり者の妻翔子(木村多江)。新鮮さは薄れたものの、子供の誕生を前にむつまじく暮らしていた。しかし、生まれた子はまもなく世を去り、翔子の心は少しずつ崩れていく……。

 きっかけは01年の米同時多発テロ、前後して発症した自身のうつ。そしてしばらく後にテレビで見た光景だった。

 「自業自得」。若い女が笑いながらプラカードを掲げていた。イラクで人質になった日本人が帰国した空港で。

 「ショックでした。いつから日本人はこうなってしまったのだろう、と。テロ以降の世界では封じ込められていた問題が一気に噴出している。うつも似ていて、過去に解決した感情が突如、フレッシュによみがえる。同様に、彼女の行動は、日本社会に潜んでいた何かが、噴出した結果ではないのかと思ったのです」

 ごく普通の夫婦の決して珍しくはない「事件」の日々を、橋口は平成以降の日本で起きた大きな事件と並走させる。翔子を支えるカナオは、一方で法廷画家として、私たちの記憶にオリのようにたまっている被告たちの姿を写生していく。

 共に映画初主演となる2人がいい。感情の起伏を丁寧に演じた木村。そして、連れあいの微妙な感情の揺れを見過ごさず、全力で丹念に受け止める夫に成りきったリリー。橋口も絶賛する。

 「順撮りではないのにもかかわらず、ラストシーンのリリーさんは夫婦の時間を積み重ねた顔つきになっていた」

 その表情には、監督が作品にこめた「ささやかな希望」が刻まれている。

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