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〈表現の秋〉小説の主役は書店員

2006年11月16日15時09分

 書店員が選ぶ本屋大賞が小説の売れ行きを左右し、書店員の出す推薦コメントが批評家以上に影響力をもつ。そして、「書店が舞台になっている小説」にも注目が集まり始めている。

写真大崎梢さん
写真書店員が登場する本の数々

 大崎梢さんのデビュー作『配達あかずきん』(東京創元社)は、女性書店員と女子大学生アルバイトのコンビが、謎解きに活躍するミステリーだ。無名の書き手だったにもかかわらず、「本の雑誌」が選ぶ上半期エンターテインメント・ベスト10の2位に選ばれた。

 この時のベスト10では、有川浩さんの『図書館戦争』(メディアワークス)が1位、古書店を営む大家族を描いた小路幸也さんの『東京バンドワゴン』(集英社)が4位に選ばれ、「本もの」が3作までランクインしている。

 大崎さんはこの春まで書店員だった。自分ではあたりまえになっているようなエピソードを書店好きの友人に話すたびに、へえっと驚かれることが執筆のきっかけになった。

 たとえば本のカバー。「おかけしますか」と聞いたとき、「かけるに決まってる」という客もいれば「かけないに決まってる」という客もいる、とか。雑誌の付録を書店員がいちいち挟み込んでいることも案外知られていない。

 本好きにとって、身近な場所の、ちょっとした「なぞ」が、意外に興味をひくことにきづいたことが、執筆のヒントになった。

 『配達あかずきん』では巻末に現役書店員による座談会をつけ、「書店員による」「書店ミステリー」を強調している。1作目が好評だったので、9月末には同じ書店員コンビが活躍する2作目の『晩夏に捧ぐ』が、来春にはシリーズ3作目が出る予定だ。

 小手鞠(こでまり)るい『エンキョリレンアイ』(世界文化社)では書店員と客の出会いが描かれる。山田あかね『すべては海になる』(小学館)のヒロインもアルバイト書店員だし、光原百合「ささやかな奇跡」(『十八の夏』双葉文庫収録)は男性書店員が主人公で、書店の仕事やちょっとした本のうんちくがうまく織り込まれている。書店漫画『暴れん坊本屋さん』(久世番子著、新書館)も3巻まで出る人気ぶりで、書店や書店員を描くことは小さなブームになっているようだ。

 「ものすごく大きな流れになっているかどうかはわからないけれど、本を買う場所に元気がないと楽しくないし、少しでも活気づいてほしい。本を扱った作品は応援したくなります」

 「本の雑誌」発行人の浜本茂さんは言う。

 書店にくわしいライターの永江朗さんは、「出版点数が増えすぎて本の全体像がつかめなくなってしまったなかで、読者と日々出てくる出版物を両方知る立場の書店員に注目が集まっている。本屋大賞の成功もあり、出版界での相対的な地位も上がって、ある種の『書店員ブーム』が背景にあるのでは」と分析する。

 書店業務は薄利多売でお給料もそれほど多くない。実際には大変なこともあるが、「愚痴を書いてもしかたない。本を読んで仕事を知って、それでも書店員になりたい、と言ってくれる人がいるとやっぱりうれしい」と大崎さんは言う。

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