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産業遺産、どう生かす 崩壊進む近代化の「証人」

2006年11月16日

 製鉄所や造船所の跡、そして炭鉱跡。日本の近代化と繁栄の基礎を築いた産業遺産が近年、文化財として注目を集めている。一方で、保存や活用の難しさも指摘される。産業遺産の現在と今後の課題は――。

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荒れ果てた「軍艦島」。建造物は崩壊を続けている=長崎県端島で

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日本の重工業を支えた国史跡「万田坑」=熊本県荒尾市

◆保存・維持には膨大な費用

 「産業遺産群は、現在の経済大国日本の原点。日本がなぜ、急激な近代化を遂げることができたのかを解明する鍵になりえます。それを伝えるのは国家の義務といえます」

 都市経済評論家の加藤康子さんの指摘だ。明治維新後、日本は国を挙げて急激な近代化を推し進めた。その原動力となったのが製鉄所や炭鉱施設、造船所などだ。

 文化庁記念物課によると、史跡指定1591件のうち近代化遺産は21件とまだ少ないが、広げていく傾向にあるという。また、96年に文化財保護法に登録制度が導入されて以来、地元の産業遺産を文化財登録して活用しようとの動きも盛んになりつつある。

 世界遺産に推す動きも出始めた。旧官営富岡製糸場を擁する群馬県は世界遺産推進室を設け、準備を進める。九州地方知事会は、九州の産業遺産の一括登録に意欲を見せる。また、産業遺産などの廃虚を愛(め)でるブームも続いている。

◆世界遺産に意欲

 経済産業省も「日本の近代化の原点を知ってもらうことは地域産業の活性化になる。起業への啓発にもつながる」(産業施設課)とバックアップ。先月末には東京で「近代化産業遺産ネットワークシンポジウム――産業遺産の世界的価値を考える」を開いた。

 シンポに先立ち同省は、海外の研究者らも加わる視察団を組織し、鹿児島、熊本、福岡、長崎、山口の各県を回った。維新の立役者が多く輩出した九州や山口県は、産業遺産が集中する地域だからだ。

 幕末、欧米に対抗するため薩摩藩(鹿児島県)が育成した紡績や製鉄などの工場群や反射炉に始まり、重工業を支えた三池炭鉱(福岡・熊本県)などへつながっていく。万田坑(熊本県荒尾市)や宮原坑(福岡県大牟田市)、萩反射炉(山口県萩市)などの国史跡もあり、近代化の曙(あけぼの)から石炭産業の終焉(しゅうえん)までがたどれる。

 視察団は、老朽化が激しくて普段は上陸できない長崎市端島(はしま)も訪れた。長崎港から約19キロの海に浮かぶ、通称「軍艦島」。海底炭鉱の島だ。

 1890年に本格的に操業開始。ボタで周囲を埋め立てながら面積を広げ、東西160メートル南北480メートルに「成長」した。アパートや学校、病院、映画館などが林立、60年には約5200人が住んでいた。しかし、74年に閉山した。

◆「まずは調査を」

 島内はがれきや木材、ガラス片が一面に散乱。建物の中は廃材で足の踏み場もない、まったくの廃虚だ。建物も少しずつ崩壊を続けているが、視察した国際産業遺産保存委員会事務局長のスチュアート・スミスさんは「こんな大規模なものがこれほどの密集度で残っているとは。世界遺産の価値がある」と話す。

 産業遺産群の保存に尽くしてきた鉱物学者バリー・ギャンブルさんも「劣化状況をまず調査して、保存計画をたててほしい」と注文する。

 しかし、保存するにはあまりに巨大すぎる。維持にも膨大な費用がかかる。建物は崩れて危険も伴うため、すぐに観光資源として活用するわけにもいかない。管理する長崎市は「議論を始めたばかり」と言うにとどまった。

 「軍艦島を世界遺産にする会」理事長の坂本道徳さんは「放っておけば海の藻くずになる」と危機感を募らせる。

 産業遺産は美しい城郭や寺社などと違い、廃棄された鉄やれんがの塊に見える。さらに、過酷な労働や事故、労働争議や公害など暗い記憶がつきまといがちだ。廃虚に魅力を感じる人がいる一方、「文化財」とみるのに抵抗感を持つ人は少なくないだろう。

 ギャンブルさんは、「産業遺産を保存するには、それを抱えた地域の人々の理解が不可欠。そして、点在する各地の遺産ひとつひとつをつなぎあわせ、ネットワークをつくり、面としての保存対策をたてることが必要だ」と話す。

 近代化の「証人」たちは、残骸(ざんがい)として風化してゆくか、それとも後世への貴重な歴史遺産になるか。

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