米国で目覚めた日本の美 現代美術家・杉本博司
2006年12月15日
世界各地の海を撮影した「海景(かいけい)」シリーズは、灰色の空の下に水平線が静かに広がっている。「建築」シリーズは、ピントのぼけたエッフェル塔など有名な建築のぼんやりとしたシルエットが浮かぶ。
ニューヨークを拠点に世界中の様々な被写体を追いかけ、とくに最近10年、写真作品が国際的に高い評価を受けてきた。来年、欧米の美術館で開かれる個展だけで10を数えるという。
高い評価を受ける理由の一つに、「日本人の感性」をあげる。主に白黒で表現される作品は、端正で洗練された印象を与える。欧米の美術界は、そこに東洋的な「美」や仏教的な「無」の反映を見てとろうとする。「作品には日本史全体を通観する視点や、日本人の基本的な感性を出したいと思ってきた」と自身も歓迎する。
もっとも日本の美に目覚めたのは、70年にアメリカに渡ってからだ。立教大でマルクス経済学などを学んだ後、就職はせず、単身カリフォルニアへ。そこで社会を変えようという若者たちによるカウンターカルチャー運動に興味を抱き、美術学校に通うことに決めた。
その若者たちの間で流行していたのが、禅や東洋の神秘主義だった。慌てて日本の文化を勉強した。だから自らを「アメリカ製日本人」と呼ぶ。
日本を知るもう一つのきっかけが、アメリカでのおぼつかなかった作家生活を安定させるために始めた日本古美術の商売だ。日本各地を回って仏像や民具を集めながら、鑑識眼を磨いた。「古美術には長い時間を生き延びてきた力が、形として表れている。自分の作品を作る時、そんな優れた古美術品には勝てないまでも、負けていないかを意識する」という。
近年、写真以外に表現の幅を広げる。瀬戸内海の直島では、「護王神社」(02年)の再建という建築を手がけた。開催中の個展には、数式を巨大な3次元模型で表した立体なども並ぶ。
準備中の写真シリーズは、写真技術の発展に貢献した英国人タルボットが約170年前に撮影した最初期の紙製のネガを購入し、自分で焼こうという企画だ。「写真が発明された時の『原初の驚き』が体験できるはず」と期待する。
デジタル化で激変する写真の世界だが、原点に戻ってその魅力を問い直す。「カメラは、人間がものを見るとはどういうことかを考える非常に面白い装置なんです」
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〈すぎもと・ひろし〉48年、東京生まれ。70年に渡米し、ロサンゼルスの美術学校で写真を学ぶ。74年からニューヨーク在住。著書は『苔のむすまで』(新潮社)ほか。個展「本歌取り」は東京都中央区銀座1の7の5のギャラリー小柳で07年1月27日まで。
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