現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事

〈現代雑誌事情:中〉電子雑誌に挑む出版社

2007年02月07日10時58分

 登録会員は2000人余り。売り上げは月に約200冊、15万円前後――。趣味系雑誌の出版社、ネコ・パブリッシングが昨年11月から販売を始めた電子雑誌の実績だ。自動車専門誌「Tipo(ティーポ)」など同社の10誌を紙の2割引きの価格でダウンロードできる。「まだまだです。でも、今後伸びていく感触はある」と笹本健次社長は語る。

写真続々登場している電子雑誌。従来の紙媒体だけでなくインターネットの世界での定着をめざす

 主婦の友社は昨年休刊した女性誌「éf(エフ)」を、電子雑誌「デジタルéf」に衣がえした。会員に無料公開中だが、2月25日から有料化する。1号700円で、1年の定期購読なら1号あたり245円。無料会員は今2万人余りいるが、「スタート時点で1万人が有料会員に移行してくれれば」と、担当の渡部伸ライツ事業部長は期待を抱く。

 同社は女性誌の「mina(ミーナ)」と「S(エス) Cawaii(カワイイ)!」の電子雑誌版も無料公開中だ。将来はこれらも販売する予定で、「デジタルéf」はその実験的な役割も担う。

◆紙文化守る

 これまで出版社は雑誌のウェブでの展開には消極的だった。ビジネスモデルがなかったからだ。だが、販売面の苦戦、広告収入面でのインターネットの急激な追い上げなどが背中を押しつつある。電通によると、05年の媒体別広告費は雑誌3945億円に対し、インターネット2808億円。ここ数年で逆転するという見方が強い。

 情報の受け取り方がさまざまに広がった読者に向けて紙だけでなくウェブでも発信する、ウェブに奪われた読者や広告を取り戻す――というのが電子雑誌の狙いだ。従来の読者にウェブの読者を上積みしたい、という思惑もある。

 主流は、紙のレイアウトをそのまま使い、ページをめくって見開きで見せる形式だ。欧米で多くの電子雑誌販売を手がけているZinio(ジニオ)社と提携して本格展開をめざす動きもある。

 紙のレイアウトを使うのは、ウェブ用にわざわざ作り直すコストをかけなくてすむ、という利点が出版社側にあるからだ。

 また、小学館ネット・メディア・センターの岩本敏執行役員は「出版文化を守るため」と強調する。「我々は紙メディアとして最も読みやすいレイアウトを作り上げてきた。日本人はスクロールするよりもページをめくる方が読みやすいはずだ」。同社も今年、電子雑誌販売を始める予定だ。紙と同額にするという。「ウェブは『横書き=無料』のイメージが強いが、『縦書き=有料』の出版文化を持ち込んで定着させたい」

 しかし、無料閲覧が定着しているウェブの世界で課金することは大きなハードルとなる、という声は根強い。

◆様子見状態

 広告収入の面でも課題がある。ネット広告の代表格は閲覧数、クリック回数などが料金に反映するバナー広告だが、電子雑誌は「1ページあたり○円」という紙と同じような広告単価を想定している。だが、広告効果も不明なだけにその相場はまだ確立していない。

 日本広告主協会の小林昭(ひかる)専務理事は「紙の媒体の力の強化にまず取り組んでほしい」とくぎを刺す。「広告を出す側としては電子雑誌を興味をもって見ていることは確かだが、少なくとも1年間は様子見でしょう」

 デジタル文化に詳しい評論家の歌田明弘さんは、見通しをこう語る。「アクセスが多くても広告効果がないサイトもある。その点、雑誌は知名度とコンテンツの信頼性があるので、企業が広告を出しやすい面はある。ただ、これで部数や広告の落ち込みを取り戻せるとは思えない。当面はウェブで知ってもらい、紙に導くというPRの意味合いが大きいのではないか」

 一方で、歌田さんは可能性も見ている。「これだけ雑誌の数が多いと書店では見逃すものもある。そういう埋もれた雑誌を電子化すれば読者に『発見』してもらえる。また、バックナンバーを出版社が在庫で抱えておくのは大変だが、電子雑誌ならいつでも供給できるので、雑誌のロングテール化も期待できる」

 「紙の雑誌のブランド力が健在なうちに、遠のいた読者を取り戻したいんです」。小学館の岩本さんは電子雑誌への意気込みを語った後、こう付け加えた。「でもね、やってみなければわからない」

 霧の中の船出。電子雑誌は雑誌を活気づけてくれるかどうか。関係者は今、目をこらしてその行き先を見つめている。

PR情報

このページのトップに戻る