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仏で高校生の文学賞に注目 「本家」しのぐ売り上げも

2007年03月05日17時33分

 フランスに「高校生ゴンクール賞」という文学賞がある。選ばれると、時に本家ゴンクール賞受賞作をしのぐ売れ行きを見せることもあるという。19年前、ひとつの地方で始まったささやかな読書教育の試みが、いまでは2000人の高校生が参加し、受賞決定の瞬間がテレビに映されるほどの注目を集めるようになった。

写真高校生ゴンクール賞参加校の討論風景=辻由美さん提供

◇候補作から教室で討論、価値判断

 ナチス党員の過去をもつ父は逃亡、みずからの生い立ちがウソで固められていることに気づいた少年が、自分は何者かを探る旅に出る『マグヌス』(シルヴィー・ジェルマン著、辻由美訳、みすず書房)。昨年11月に翻訳出版された。帯に「高校生ゴンクール賞受賞作」とある。ホロコーストの悲劇に隠された家族の苦悩を描いた05年の『ある秘密』(フィリップ・グランベール著、野崎歓訳、新潮社)にも「高校生が選ぶゴンクール賞受賞」の文字があった。

 ゴンクール賞とは、日本でいえば芥川賞にあたるような最も知られた賞で、ゴンクールアカデミーの会員が選考にあたる。とすれば、「高校生ゴンクール賞」とは何なのか。

 『マグヌス』の訳者、辻さんが「図書館の学校」や「ふらんす」に紹介記事を寄せている。辻さんによれば、もとはレンヌ市の教師が、生徒を現代文学に親しませようと個人的に組織したもので、国民教育省と大手書店チェーンのフナックがかかわるようになり全国に広がったという。2回目からは権威あるゴンクールアカデミーが「ゴンクール賞」の名称を使うことを許可しているというから驚く。

◇もとは教育目的で始まる

 高校生ゴンクール賞は、ゴンクール賞の第1次候補作十数冊から選ばれる。毎年、候補が発表されると、フナックが、参加する高校のクラスに各7、8冊ずつを届ける。本は無料。一緒にお菓子も届けられ、ちょっとしたセレモニーが開かれる。

 参加はクラス全員が原則で、2年続けて同じ高校が参加することはない。表紙を見てどんな印象をもったか、本について意見の異なる2人の対話をイメージしてみるなど、さまざまな方法で批評の議論を深めていく。新作ばかりで指導要領などはないから、教師も自分で価値を判断しなくてはならない。

 2カ月かけて、いいと思った3作と、地方審査委員会に出るクラス代表1人を選ぶ。そこで再び3冊と代表を選び、レンヌ市のレストランで開かれる全国審査に臨む。高校生の代表が受賞作を発表する瞬間は、テレビでも報じられる。

 ゴンクール賞と高校生ゴンクール賞が同じ結果になることもあるが、最近では異なることのほうが多い。昨年、ゴンクール賞には、アメリカ人作家ジョナタン・リテルのベストセラー『Les Bienveillantes(厚情な女たち)』が選ばれたが、高校生たちはレオノラ・ミアノの『Contours du jour qui vient(来るべき日の輪郭)』を選んだ。

 「高校生ゴンクール賞のほうが優れた作品を選ぶ」と評価するジャーナリストもいるとか。「単なる人気投票ではなく、きちんと議論に堪える作品を選んでいるから」だと辻さんは見ている。メディアの注目も、参加する高校生を盛り立てている。

 日本でも高校生ゴンクール賞は知られ始めている。『マグヌス』『ある秘密』のほか、『アラーの神にもいわれはない』(アマドゥ・クルマ著、真島一郎訳、人文書院)、『碁を打つ女』(シャン・サ著、平岡敦訳、早川書房)、ゴンクール賞も受賞した『フランスの遺言書』(アンドレイ・マキーヌ著、星埜守之訳、水声社)が訳され、03年の受賞作ヤン・アペリー著『Farrago』も河出書房新社から出る予定だ。

 『アラー…』は西アフリカ出身の作家が、部族戦争に参加する少年兵の現実を、『碁を…』は中国系作家が満州の娘と日本人士官の恋を描いたもの。『フランスの…』はロシア系作家が20世紀ロシアを生きた祖母の人生をたどる。若者向けというより、歴史や時代について深く考えさせる歯ごたえのある作品ばかりだ。しかも読んで面白い。

 フランス著作権事務所代表のコリーヌ・カンタンさんは、「読者の声が伝わってくる賞。高校生は正直で、操作されないから信頼がある。この賞はここ5、6年、市場にも影響力を持つようになってきた。日本でもこうした試みが始まれば面白いと思う」と話す。

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