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織田作、横光らの直筆原稿刊行へ 鹿児島の文学館が所蔵

2007年04月03日11時57分

 鹿児島県薩摩川内(せんだい)市の川内まごころ文学館が所蔵する雑誌「改造」関係の直筆原稿約7000枚の全容が明らかになった。織田作之助の短編「夫婦善哉(めおとぜんざい)」の未発表の続編を始め、横光利一の長編「上海」、大佛次郎の史伝「ドレフュス事件」など、90人の作家らの息吹を伝える作品が236点。近代文学研究の第一級資料だ。調査している早稲田大名誉教授の紅野(こうの)敏郎さんらが2日、東京都内で発表した。

写真改造社を創設した山本実彦
写真横光利一
写真織田作之助

 「改造」は1919年に改造社が創刊した総合雑誌。大正デモクラシーの潮流に乗って急進的な編集方針を取り、大正から昭和にかけて「中央公論」と共に言論界で主導的な役割を果たした。文芸にも力を入れて新人の登竜門とされた。

 55年に廃刊となり、同社を創設した故山本実彦の遺族が99年、出身地の薩摩川内市に寄贈した。直筆原稿は「改造」のほか、「女性改造」「短歌研究」などの雑誌や、「日本文学講座」などの単行本のものもある。一部は同文学館の常設展や収蔵品展で公開されており、紅野さんら研究者が解読・分析を続けていた。

 主な直筆原稿は井伏鱒二「波高島(はだかじま)」、幸田露伴「蒲生氏郷」、小林多喜二「工場細胞」、瀧井孝作「無限抱擁」、谷崎潤一郎「芸術一家言」、火野葦平「敵将軍」、武者小路実篤「或(あ)る男」など。文学者以外にも伊藤野枝、賀川豊彦、堺利彦、英国のバートランド・ラッセルらが名を連ねる。

 紅野さんは「近代文学史や思想史を彩る著者の直筆原稿がこれほど大量に残っていたのは研究史上の一大事件だ。推敲(すいこう)過程をたどることによって得られる情報は計り知れない。検閲を配慮した伏せ字も復元できる」と語る。

 推敲の跡は個性に富む。よく寝転がって原稿を書いた直木三十五は速筆で知られ、原稿もほとんど手直しがない。対照的なのが、この「改造」コレクションの白眉(はくび)とされる「上海」。全7章のうち4章の原稿が残っていた。加筆と削除の跡はすさまじく、横光が新感覚派の文体創出のために格闘した様子がうかがえる。

 改造社の雑誌「文芸」40年7月号に発表された織田の出世作「夫婦善哉」は、芸者の蝶子が気の弱い若だんなの柳吉と駆け落ちし、たくましく生き抜く姿が描かれている。今回、未発表作と判明した「続夫婦善哉」は本編から1年後の設定で、2人が大分県別府市に移り住んでからの生活が描かれている。未発表作と判断した神奈川大教授の日高昭二さんは「織田の著作権継承者と協議した上で、『夫婦善哉』と合わせて完全版『夫婦善哉』の形で刊行できたら」と話す。

 また、約7000枚の直筆原稿はすべて写真撮影を終えており、画像データを収めたDVDと研究書が、それぞれ東京の雄松堂出版から9月に刊行される予定だ。

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