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世界文学の名作 脚光 18年ぶりに全集発行など

2007年05月10日12時29分

 世界文学の「古典」がにわかに脚光を浴びている。河出書房新社は今秋、国内では18年ぶりとなる「世界文学全集」を出す。近年さかんに刊行され始めた古典の新訳も売れ行きが好調だ。本屋大賞が注目されたり、ライトノベル系の作家が活躍したり、親しみやすい小説が評判を呼ぶ一方で、ガツンと読み応えのある名作が復調の兆しをみせている。

写真河出書房新社から刊行予定の「世界文学全集」(見本)
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写真池澤夏樹さん

 世界文学全集は50年代から70年代にかけて各文芸出版社が相次ぎ発行したが、89年に同社と集英社が出して以来、途絶えていた。

 河出書房新社の若森繁男社長は「(同社主催の)文芸賞を受賞した若い作家たちも、過去の名作を読みたくても手に入らないと嘆いている。今、読者は名作に向かっている」と話す。

 11月から刊行される「世界文学全集」は全24巻(各2520〜3360円)。20世紀後半に書かれた名作を中心に、作家の池澤夏樹氏が1人で作品を選ぶ。初巻はJ・ケルアック『オン・ザ・ロード』(青山南訳)。『路上』の題で親しまれたビート世代の代表作の新訳だ。以降、バルガス・リョサ『楽園への道』(田村さと子氏による初訳)、M・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』(西永良成氏による新訳)と続く。

 現代文学の名作を「古典」としてスタンダード化する動きの一方で、定評ある旧作の新訳も活発になっている。03年に村上春樹氏がサリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』を原題のまま『キャッチャー・イン・ザ・ライ』として訳出した頃から増え始めた。

 光文社は昨年9月に「古典新訳文庫」を創刊、今月までに29冊を刊行した。創刊月に出した8点のうち6点が増刷され、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』は全3巻合わせて7万8千部が出た。ゴーゴリの小説を落語調でつづる新訳なども評判を呼んだ。

 駒井稔編集長は「大成功です。定年退職で時間のできる団塊の世代を当て込んでいたが、読者の半分は30代までの若者でした」。

 岩波文庫も、従来は適役の訳者が見つかった機会に訳を更新してきたが、ここ数年は、幅広く新訳をリストアップする方針に変えたという。「岩波文庫は活字がぎっしりで訳が古めかしいというイメージがあったが、読みやすくなったという評価が浸透してきた」と塩尻親雄編集長。

 新潮社は05年にカポーティ『冷血』、ナボコフ『ロリータ』などの新訳を文庫本ではなく異例の単行本で刊行、すぐ増刷した。今月はデュ・モーリア『レベッカ』の新訳を単行本で出す。

 こうした動きについて、作家いとうせいこう氏との「文芸漫談」で名作の読みどころを紹介している作家の奥泉光氏は、「名作を再評価する時代に入った」とみる。「明治以降、日本は西洋文学に学び、一時は外国文学なら何でも摂取した。その後、仏文学や南米文学などトレンドに左右される時代になり、やがてトレンドもなくなった。今、落ち着いて古典を読む層が出てきて、現在でも面白さを発見できる作品と、消えてゆくものとに淘汰(とうた)されてゆくのではないでしょうか」

   ◇

「名作との格闘は恋愛より大切」 世界文学全集選者の池澤夏樹さん

 ――なぜ今、世界文学全集なのですか?

 「今は口当たりのいい、おなかにもたれない小説を好む読者の層が膨らんでいる。だが、歯ごたえのあるものを頑張って理解した時の達成感は大きな喜びになる。そうした格闘の体験は恋愛より大切なものだ。全集体験は、読書とはその場で値打ちがわかる取引だけではないということを知るいい機会になる」

 ――中国やベトナム、アフリカなど第三世界の文学も多く収録しています。

 「今の生き方にびんびん響いてくる作品を選んだ。地理的に目配りして拾い、社会階層のバランスも考えた。世界的に文学の水準が上がり、各国が自分なりの文学で社会を表現できるようになってきた」

 ――最近、名作が注目されるようになったのは?

 「何でもありの世界だからこそ文化的基準が求められる。10年前には古典が消えたとグチを言っていたものだが、欠落が一定レベルを超え出版人が気付いたのだろう。一時、出版点数の多さが書店の棚を圧迫し本が入手しにくくなったが、ネットで欲しい本がすぐ買えるようになり、マーケットが本来の形に戻った。書評やブログの読書日記など本を探す目安も増えた」

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