現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事 女性の貞操から財閥対抗まで 横山源之助の全集出版2007年05月20日12時02分 明治から大正初期の社会派ジャーナリスト、横山源之助(1871〜1915)の全集がこのほど完結した。当初手がけた出版社は経営不振で事実上倒産、別の会社が刊行を引き継ぎ、7年かけて完結までこぎつけた。ルポルタージュの先駆者として知られる横山の全体像が初めて明らかになった労作だ。
横山は新聞記者を経て、今でいうノンフィクション作家に転じ、多くのルポを執筆する一方、政府の社会調査などにもかかわった。貧民や労働者、小作農の生活を探訪した代表作『日本之下層社会』(1899年)は、東京の貧民街の職業や人口、家賃、人力車夫や芸人、職人の賃金や生活費などを調べた数字や統計を駆使した実証性と、文学的な描写の併存が特徴だ。当時の社会階層や初めての日本資本主義の構造史の研究として、社会学や経済史的にみても貴重な資料といわれる。 近代化が進む過渡期の日本の暗部に焦点をあてた仕事のイメージが強いが、全集に収められた作品は多彩だ。婦人と犯罪、日本婦人の貞操の程度、明治疑獄史、三井王国と三菱王国の対抗、大和民族の海外発展、明治暗黒史、怪物伝……。社会や経済の問題はもとより、歴史、文学、民俗などにも関心は広がる。 全集を編集した元法政大学大原社会問題研究所員の立花雄一さんは、約50年かけて作品を発掘、研究を続けてきた。「横山は、49年に『日本之下層社会』が復刊されるまで、半世紀にわたって忘れられた存在であり、業績の多くは今まで埋もれていた。学問的な財産であり、思想史的に見直してもらいたかった」 新聞や雑誌に発表された作品を中心に、500点以上を、社会・労働、富豪史、殖民(しょくみん)、文学の4分野に分けて計9巻と別巻2巻に収載した。ほとんどが書籍にまとまったのは初めて。 実は横山全集には因縁がある。70年代にもある出版社が企画したが、2冊を出して頓挫。今回も『日本之下層社会』出版100年を機に、社会思想社が00年から刊行を始めたが、02年に経営不振のため3巻で中断、04年から法政大学出版局が残りを刊行した。 装丁などもそのまま別の出版社が引き継ぐ「継承出版」というスタイルは国内では珍しい。刊行済みだった在庫本は、倉庫代を節約するため関係者が自宅に保管するなど、出版継続には様々な苦労もあった。 「社会思想社と共同で完成できた事業だと自負している」と法政大学出版局の平川俊彦理事。社会思想社で企画に携わり、引受先探しに奔走した浦田伸二郎さんは「『継承出版』の旗を立ててくれたことに感謝している。横山の魅力があってこそ、完結にこぎつけたのだと思います」と話している。 全集は各9870〜1万4700円。 PR情報この記事の関連情報 |