現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事 戦後占領期コレクション刊行 時代映す短編小説集2007年07月17日11時54分 『戦後占領期短篇小説コレクション(全7巻)』(藤原書店)の刊行が始まった。好評だった「戦後短篇小説再発見」シリーズ(講談社文芸文庫)がテーマ別だったのに対し、期間を限定しているため「時代」の手応えがより強い。
「戦後占領期」とは、1945年8月15日の敗戦を実質的な始まりとし、52年春、講和条約発効によって連合国軍総司令部(GHQ)が廃止されるまでの7年弱。序文にあるように「戦時下とはまた異なるかたちで占領軍による情報統制、検閲があった」が、作家たちは自由な表現をめざし、「ひとびとは粗末な紙に印刷された出版物に殺到した」時期でもあった。 平林たい子「終戦日誌」から松本清張「或る『小倉日記』伝」まで、1作家1作品で選んだ58編を1年ごとにまとめた(45〜46年は1巻)。 戦争をふりかえるものが多い。既刊の47年、49年の巻では、フィリピンでの敗残のさまがうかがえる梅崎春生「日の果て」、毒ガス開発での副作用を個人的に研究する医師の無力感が漂う藤枝静男「イペリット眼」、陸軍刑務所を描いた野間宏「第三十六号」など。戦争、軍隊の非人間性が浮かび上がる。 47年1月に発表された中野重治「五勺の酒」は天皇制、占領軍、新憲法への複雑な市民感情を映し出し、丹羽文雄「厭がらせの年齢」は戦中、戦後の老人の悲劇でもある。同じ年の浅見淵「夏日抄」は鮎(あゆ)釣りの楽しさが身体的に伝わる。 編集委員のひとり、紅野謙介日本大教授は、「従来、この時期については思想、政治が出てくることが多かったが、多様な生活を見せる作品を意識して選んだ」という。発表当時、一部削除された「五勺の酒」の例でもわかるように占領軍に批判的な文章は検閲で除かれた。また、日本が植民地とした地域の人々の苦しみには、視線はほとんど及ばなかった。「書かれたもの、書かれなかったものもふくめ、日本のかたちが決まったプロセスを小説を通してふりかえってほしい」 創作のエネルギーがほとばしった時代だけに、ひとつひとつが面白い。個々の作家に関心を広げたり、大きな課題への入り口にしてもいいが、まずは短編小説の魅力に出あいたい。 PR情報 |