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「エスペラント」誕生120年 言語考える書籍や大会

2007年08月30日10時42分

 民族や国家の壁を超える国際共通語として「エスペラント」が考案されて今夏で120年。エスペラント文学の可能性を示す訳詩選集と、この人工言語の歴史を通して言語とは何かを問う優れた啓蒙(けいもう)書が刊行された。今月初めには横浜市で第92回世界エスペラント大会も開かれ、57カ国からエスペランチストら約2000人が参加した。

 エスペラント文学の系譜には、母国語ではなくエスペラントで作品を書き下ろす創作者がいる。昨年死去したスコットランドの詩人ウィリアム・オールド(1924〜2006)もその一人。自らエスペラントの民の詩人と称し、エスペラント文学の一つの到達点とされる。多彩な詩業を初めて紹介したのが『ウィリアム・オールド詩集』(ミッドナイト・プレス)だ。

 冷戦下に発表された代表作「子どもの種族」は25章からなる哲学的な長編詩。人類の歴史を展望し、我々はまだ愚行を繰り返す子どもの段階にすぎないとしながら、希望を未来に託す。ほかに性的主題を大胆に扱った恋愛詩や、エスペラントの現状を憂える創始者ザメンホフの幽霊と対話するユーモラスな詩もある。

 訳した日本エスペラント学会研究教育部の臼井裕之さんは「人工言語は繊細な文学表現に向かないとする見方もあるが、エスペラントが立派な創作言語たり得ることをオールドの詩は証明している」と語る。

 エスペラントの詩は音楽性に富み、韻の響きが心地よい。世界大会の朗読の夕べ「エスペラントの詩×日本の詩」で、臼井さんが酔いどれ男になり切ってオールドの詩「酔っ払い」を朗読すると会場は沸いた。この企画には、詩人の谷川俊太郎さん、エスペラントで創作するハンガリーの詩人イシュトヴァン・エルティルさん、クロアチアの女性作家スポメンカ・シュティメッツさんが出演した。

 「母語である民族言語よりもエスペラントの方が自分らしさを表現できる」とエルティルさん。「エスペラントが私の才能を必要としている」とシュティメッツさん。谷川さんも「日本語以外の言語の詩人らと、これほど親しく語り合えたのは初めて。エスペラントが若い言葉であるという特性と切り離せないことでしょう」と感想を述べた。

 英語帝国主義と呼ばれるほど英米語が広範に使われているなかで、エスペラント人口は現在、世界中で約100万、日本では約1万とされる。民族間の橋渡し言語を希求した当初の理想は遠い。

 言語における自然と人工という主題に取り組む言語学者の田中克彦さんが著したのが『エスペラント 異端の言語』(岩波新書)。希望する人・物という原義とは裏腹に、スターリンやヒトラーに迫害され、正統の言語学からも異端視されてきたエスペラントの苦難の歴史をたどり、その現在を鮮やかに描き出す。

 「生まれたままに選択の余地なく、ある特定のことばの中に閉じこめられ、それを使わされている我々人間とはいったい何か」――田中さんの問いかけは重い。

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