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ベストセラー「書店力」で 作家養成ゼミ開き新人発掘

2007年09月13日11時21分

 本屋さんの視点を生かしたベストセラーづくりの試みが広がっている。本屋大賞の受賞作が注目されるように、出版洪水で「本屋さんの目利きの力」に期待が集まる。出版不況を乗り切ろうと活路を模索する本のつくり手や取次側と、「自力で売り上げ増を」と狙う書店側の思惑が一致したかたちだ。

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「作家養成ゼミ」では、受講生が自分の企画の進行状況を発表、オブザーバーや書店員が意見を出し合う=東京・東池袋のリブロ東池袋店で

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 8月下旬の金曜夜。東京の書店、リブロ東池袋店内のカフェで「作家養成ゼミ」があった。全国に61書店を展開する大型書店リブロが今年6月から月1回、全5回の日程で開いている。

 ジャンルを問わず、著書を出したい人から企画を募り受講生を選抜、企画や原稿を練りながら出版社へ橋渡しして刊行を実現させるのが目標。オンラインゲーム制作者や元コピーライター、IT企業経営者ら26〜67歳の12人が受講する。

 講師は作家エージェントの鬼塚忠アップルシード・エージェンシー社長。ほかにオブザーバーとして、出版社の編集者や営業担当ら毎回20人ほどが参加。リブロの商品部員や各店の店長ら8人も出席する。

 「ハウツー本か自己啓発書か編集方針をはっきりさせないと、どちらの売り場でも中途半端になる」「読者からの手紙を募れば、もう1冊できそう」。ゼミでは、リブロ側からもさまざまな意見や提案が出る。

 発案者は鬼塚さん。「質の高い本をつくり、きちんと売れ行きに結びつけたいというのが出発点。新人の本を読者が手に取るかどうかは、書店の力にかかっている。リブロは、発売時に全国61店で後押ししてくれるのが心強い。ゼミでも発想の異なる意見は新鮮」

 提案を受けたリブロの石川淳・営業本部商品部長は「ベストセラーを待つだけでいいのかという思いがあった。新人のいい作品に書店が光を当てられたら文化貢献になるし、売り上げにもつながる。著者や編集者の志に直接触れるのは刺激にもなる。息長く続けたい」と意欲的だ。リブロ各店で売り伸ばし、ほかの書店の関心をあおって「ベストセラーのサイクル」に乗せようともくろむ。

 すでに12人中10人の版元が決まった。うち2作品は第1弾として10月末に出版される。粥川みどりさんの小説『わん☆くら』は主婦の友社から、がんのため25歳の若さで亡くなった須田幸子さんの手記『そして、涙は海になる』は母親が代理で受講、PHP研究所から出ることになった。

 PHP研究所の仲野進・第一普及本部本部次長は「『書店が推す本は面白い』が“常識”になっている。ベストセラー『女性の品格』(坂東眞理子著)も、東京・二子玉川の書店が仕掛けたのが始まり。結果はやってみなければわからないが、書店の情報発信は魅力的」と話している。

 書店が独自に本を選んで売り出す仕掛け販売も注目されている。そのなかで、一書店の成果を他店へ拡大しベストセラーにする流れをつくろうというのが取次会社・日販の「ベストセラー発掘プロジェクト」だ。

 各書店から「ベストセラーではないが自店でよく売れた本」を推してもらい、版元とも相談して取り上げる本を決める。その本が売れそうな書店を選んで参加を呼びかけ、順調ならさらに仕掛け販売を広げる。

 いま展開中の別冊太陽『春画』(平凡社)は、京都のふたば書房京都駅八条口店がきっかけ。飛龍(ひりゅう)典明店長によると、当初の配本は2冊だったが「うちならもっと売れると直感」、追加注文して入り口近くに平積みし、「売れたら補充」を繰り返すうち半年で183冊売れた。5月にプロジェクトを開始、初版1万3000部が5万部まで伸びた。

 日販www.(トリプルウィン)推進部の古幡瑞穂係長は「昨年導入したポイントカードの加盟書店・会員が増え、今年5月から、どんな年齢・性別の人が買ったか、他にどんな本を買ったかデータで示せるようになり、戦略的展開が可能になった」と話す。『春画』は、雑誌「サライ」などを買っている中高年の男性客が多く、そうした雑誌が好調の書店を中心に展開したという。

 コラムニストの山崎浩一さんは「本屋大賞は、権威ある文学賞に対し読者に近い視点の賞として新鮮だったが、時がたてば権威化する。本は内容を伝えにくい商品なので『売れている』というわかりやすい情報が肥大化しがち。だが、読者が本当に求めている情報は違うはず。本の内容をもっと豊かに伝える言葉、回路も、つくり手や売り手は考えてほしい」と話している。

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