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「都市への思い共有を」安藤忠雄氏、東京に「歴史の回廊」提唱

2007年10月23日11時28分

 建築家の安藤忠雄氏が再開発で様変わりの激しい東京に「歴史の回廊」を提案している。東京駅が元の形に復元され、丸の内の三菱1号館も再建される。日本橋の景観を昔の姿へ戻す動きもある。「それらをつなぐプロムナードを整備すれば、東京は国際社会に向けたカオを持てる。保存か再開発かで揺れる東京中央郵便局も残し、先人の記憶と夢を語り継げる東京に」と訴える安藤氏に話を聞いた。

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東京駅(左)、東京中央郵便局(中央奥の白い建物)が東京の代表的景観を維持してきた。丸ビル(右)は新築された

 ――この5年ほど東京は再開発ラッシュ。海外からの投資も相次いでいる。

 「世界中の人たちが日本を評価するのは、安全と民度の高さ。それが投資する側の安心に結びついている。その好印象を、積極的に都市の魅力に高めないと、地球規模での都市間競争に勝てない。日本の明治は、国際的にも〈世界の奇跡〉とされている。その代表的な建築、施設が、時期を同じくして復元、保存される。観光立国というなら、これを面的に生かす発想がほしい。それが歴史の回廊です」

 ――三菱1号館(1894年)は、維新後、日本の建築家を育てたジョサイア・コンドルの設計によるもので、オフィス街、丸の内の象徴だった。高度成長期に取り壊したその赤れんがが再建される。東京駅(設計・辰野葛西建築事務所、1914年)は戦災で焼失した3階部分とドーム屋根を復元。日本橋(設計・妻木頼黄ら、1911年)は高架の高速道路を地下に移して景観を取り戻す計画だ。

 「せっかくだから国際的に広報すべきです。韓国は、ソウルの都心で高架道路を撤去して清渓川の清流を取り戻したのを上手にアピールしている。東京も屋上緑化など熱心にやっているし、今回の復元、保存は、資源保護、環境保全の観点からも、ひとまとめにしたほうが訴求力が強い。東京が環境意識を高めているのは、開発ラッシュの北京、上海などのお手本になるでしょう」

 ――安藤さんは東京、大阪の駅前にある中央郵便局(いずれも設計・吉田鉄郎、東京が1931年、大阪は1939年)の保存も主張する。戦前は「東京駅が明治、丸ビルが大正、東京中央郵便局が昭和を代表する」とされた。旧・丸ビルはすでになく、中央郵便局も姿を消すと……。

 「装飾をそぎ落とした近代建築のよさは一般の人にはなかなか理解してもらえないが、なにより、もう80年近くもそこに存在して、景観として定着しているんですよ。よくみれば新表現の追究に込めた当時の建築家の意気込みが伝わってくるはず。土地の高度利用、効率優先で再開発というが、空中権を周囲の街区に譲ってもよいから、現在の土地で今のまま残すべきだ。そうすれば、江戸に始まる日本橋から、明治の三菱1号館、東京駅を経て、昭和までつながります」

 ――それにしても日本の都市の建築の保存は、賽(さい)の河原の石積みのように、なかなか定着しない。

 「今春、イタリアのベネチアで、大運河の入り口に位置する17世紀の旧税関の建物の内部を現代美術のギャラリーとするコンペに当選しました。ベネチア市などの肝いりで30年間、ギャラリーとするプログラムです。歴史資産を継承するには、ハードとしての文化遺産を活用する発想が不可欠で、旧税関もそれにのっとって新たな生命を吹き込まれるわけです。そして、なにより大切なのは、都市に対する思い。イタリアの人々にはそれがあるが日本はとなると。どんなにバーチャルな空間が広がっても、人々の暮らしは現実の都市にある。都市を維持更新し、よくしていく思いを、わが国の建築界も市民も政財界もどうやって共有して高めていくか。歴史の回廊の発想が、きっかけになればと考えています」

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