現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事 家族思いの素顔浮かぶ ゴヤの手紙など340点邦訳2007年10月28日10時49分 スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746〜1828)が書いた手紙などをもとに心の動きをたどる『ゴヤの手紙』(岩波書店、松原典子・大高保二郎共訳)が刊行された。私的な手紙だけでなく、画材や俸給の請求書、出生や結婚証明書まで340点以上を網羅。恋と情熱の画家として知られてきたゴヤのイメージが大きく変わるかもしれない。 読んでまず驚くのは、ゴヤの家族思いだ。特に、父が亡くなってからは、一族郎党が彼に依存することになり、友人サパテールに「あの連中にはうんざりだ」とこぼしながらも、援助を続ける。 とりわけ息子ハビエールには愛情を注ぎ、海外留学費用を自ら王室に依頼する。アルバ女公爵などとの奔放な恋愛が知られているが、絶えず妻を気遣い、亡くなるまで大事にしたようだ。 地位やお金にかかわる手紙も多い。宮廷画家にしてほしいと国王に請願書を書き、絵を描いた教会に対しては、俸給もなく「自らの作品によって生活の糧を稼ぐほかはない」ので早く払ってと頼む。 17世紀のベラスケスのような安定した宮廷画家の制度は崩れつつあり、19世紀後半以降の芸術家と画商のシステムはまだ確立していない。極めて不安定な状態に置かれた当時のスペインの画家の状況が克明に浮かび上がってくる。 訳者の一人、大高保二郎早大教授が翻訳の構想を得たのは、1980年に恩師の故神吉敬三氏と『ゴヤ全素描』を出版した直後だという。スペインで書簡集が刊行され、その後王室関連文書や、手紙のコピーも出版された。 これまで日本では堀田善衛の大著『ゴヤ』の影響もあって、反体制で自由を求め、情熱的な恋愛を続けた画家のイメージが強かった。今回の書簡集では、宮廷画家と芸術家としての自立の間で悩み、お金の心配をし、家族思いの親しみやすい姿が見えてくる。 画家で東京芸大教授の絹谷幸二さんは、「人生の後半で功成り名遂げても、なお死ぬまではいつくばって絵を描き続けるゴヤの姿が、実に身近に伝わってきて」と述べている。 それぞれの手紙に人名などの注釈を加えて絵画の図版も挿入し、読みやすくしている。1万500円。 PR情報この記事の関連情報 |