現在位置:asahi.com>文化・芸能>文化>文化一般> 記事

遣隋使1号は600年?607年? 小野妹子から1400年、論争に終止符か

2007年11月10日11時04分

 聖徳太子が小野妹子(おのの・いもこ)を中国の隋に送ったのは607年。「日出(い)ずるところの天子」で始まる国書を携えたことで知られる遣隋使だ。それからちょうど1400年、遣隋使をめぐる長年の論争に終止符を打つのではないかと注目される研究が現れた。

■隋書の記録、日本書紀になし

 小野妹子は小学校の教科書に欠かせない存在だ。文部科学省の学習指導要領が、小学6年生で学ぶ日本史上の人物として、卑弥呼から野口英世までの42人を挙げており、妹子はその一人だからだ。

 小学校の教科書は、妹子派遣の意義を、中国に「対等な国の交わり」や「対等な付き合い」を求めた――などと説明するものが目立つ。中学校でも「607年、小野妹子を隋に送る」と示すのが主流だ。だが、直前の600年に「倭、隋に使いを送る」と書いた本もある。日中交流の出発点という印象が強い遣隋使が、いつ始まったのか、妹子は第1号なのか違うのか、教科書では判然としない。

 607年という年については、隋の正史である隋書と日本書紀の双方に記録がある。ただ、隋書には600年に倭からの使いがあったという記事もあり、素直に読めば、こちらが最初のようだ。しかし、それを遣隋使と認めないのが日本史の伝統的な解釈なのだ。

 隋書には、600年の使いが語った倭の制度や風俗は相当に遅れており、政治の仕組みを聞いた皇帝が「道から外れている」と諭したとも記されている。日本書紀には記述がない。そうしたことから江戸時代の国学者・本居宣長は「九州あたりの豪族が送った使いが勝手に倭の代表と名乗ったもので、倭の正式な使いではない」と主張した。

 宣長の考えを積極的に支持する研究者は、今ではまず見あたらないが、決定的に否定する材料もないために受け継がれ、教科書にあいまいな表現をもたらしているのだという。

■出迎え方に注目、新たな報告

 そうした中、新たな研究が報告された。「608年に帰国した小野妹子に同行した隋の使者を、日本で出迎えたのは、隋の定め通りの軍楽隊だった」というものだ。中国古代王朝の音楽制度を研究する渡辺信一郎・京都府立大教授が中国の西安で今夏あった研究会で発表した。

 出迎えの模様は記録に残されており、隋書は「鼓角を鳴らし」、日本書紀には「飾り馬75匹をつかわし」とある。「中国の北朝、つまりは騎馬民族系の軍楽隊の姿だ」と渡辺さんは分析する。角(=ホルン)は594年の隋の制度改革で初めて編成に加わった。「隋の様式の軍楽隊であることは疑いがない」

 「音楽は支配や秩序を体感させる大切な政治の道具」で、皇帝は服属した国に、等級に応じた規模や編成の楽団を与えた。階級や勲章と同じく、皇帝との身分的臣従関係を作りだすことを意味したという。

 国学院大の鈴木靖民教授(日本古代史)は「妹子たちを出迎えたのだから、それ以前の遣隋使が楽団をもらってきたのだろう。前例のない視点からの研究で、説得力は高い」と語る。

 600年の遣隋使を、きちんと認めるべきだという声は、他の研究者の間にもある。

 明治大の氣賀澤保規教授(中国史)は「日本書紀が完成する前に、隋書は日本にもたらされた。日本書紀の編者は読んだはずで、意図的に無視したとしか考えられない」とみる。田島公・東京大教授(日本古代史)は「事実は、日本書紀に記事がないだけだ。都合の悪いことを記録しないのは歴史ではよくあること。最初の遣隋使のことも、そういう視点から見直すべきではないか」と考える。

 日本書紀が無視した不都合な事実とは「倭国が隋に臣従した」ことだろうという見方で研究者は一致する。天皇が中国皇帝の臣下になることなどあり得ないと考えた宣長は、魏志の卑弥呼や、宋書の倭の五王など、中国の史書にある倭国からの使いを「偽りの使者だ」「中国側がいいかげんに書いた」などと、ことごとく否定した。その後の研究で、多くの使者の派遣が史実と考えられるようになったのに、遣隋使だけは依然、日陰の存在だ。

 「600年の遣隋使があったことに疑いの余地はありません」と、渡辺さんは力を込める。今回の研究は、最初の遣隋使の時期の考察にとどまらず、目の前の歴史像が、どのように作り出されたかを考えさせてくれる。

    ◇

遣隋使をめぐる年表

581年 隋の建国

589年 陳を滅ぼし隋が中国を統一

594年 隋の音楽制度が定まる

600年 倭から隋に使い(「隋書」による)

607年 小野妹子を隋に送る

608年 隋の使いを伴い、妹子が帰国

618年 隋滅亡、唐の建国

630年 倭から初の遣唐使

656年 「隋書」が完成

720年 「日本書紀」が完成

PR情報

このページのトップに戻る