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攻める村上隆 米欧巡回の大回顧展スタート

2007年11月22日10時42分

 日本の伝統や現代文化をポップアートと結びつけて突っ走る美術家、村上隆(45)。その大回顧展が、アメリカ・ロサンゼルス現代美術館(MOCA)で10月末始まった。題して「(C)MURAKAMI」(コピーライト・ムラカミ=来年2月11日まで)。ニューヨークのブルックリン美術館、ドイツ・フランクフルト近代美術館、スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館を巡回する。晴れ舞台をのぞくと、予想以上の質と量。記念すべき「事件」と思わせた。

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村上隆さん

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内覧会で、最新作「大仏オーヴァル」(2007年)の周りに集まった報道陣。大仏は、こちらが背中側の顔=10月26日、アメリカ・ロサンゼルスの「ゲッフェン・コンテンポラリー・アット・MOCA」で、田中写す (C)2000―2007 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 会場は、ダウンタウンにある「ゲッフェン・コンテンポラリー・アット・MOCA」。MOCAの別館である、その大空間に、絵画や彫刻、映像など約90点。92年作の初期作品から、「DOB君」、代表作「Miss ko2」、経営する会社名でもある「カイカイキキ」、子供の形をしたロボット「命」などまで、ほぼ年代順の展示だ。

 そして最新作の「大仏オーヴァル」。高さ5.5メートルのアルミ鋳造で、プラチナ箔(はく)を施し銀色に光る。正面から見ると、カッパが、高い台座の上で片脚を垂らして腰掛ける。だが、裏に回ると、その顔は一変。大きな口を開けて牙をむく妖怪にも見える。全体の像容はキノコ形。細部には小さい人間像まで付加されており、多義的だが、平和・安穏と戦争・危機が一体となっている。

 最近、最も力を注ぐのが映画。会場内の一室ではCGアニメ「kaikai & kiki」や、制作中の実写映画の予告編とも呼べるような短編の計3本が上映されている。異色の試みは、コラボレーションしてきた「ルイ・ヴィトン」の販売店を展示室内に設けたことだ。作品=製品を即売。展示室内では従来あり得なかった光景で、あえて商業とアートを結びつけ美術界を挑発しているように見える。展覧会名に「(C)」をつけた意図も伝わる。

 人気は、29日の一般オープン前から数字で証明された。MOCAによると、1日目のメディア・プレビューにはアメリカや日本などから約210人の報道陣が集まった。2日目のMOCAメンバー(日本でいう「友の会」)による内覧会とパーティーに計8626人。これまでの最高、6045人を大きく上回った。

 3日目にはルイ・ヴィトンとMOCAの経費で特別パーティーが開かれた。ヒップホップの人気プロデューサー兼ミュージシャンで、村上にミュージックビデオ制作などを依頼したカニエ・ウェストがパフォーマンスをし、俳優やモデル、収集家ら1000人規模の招待客が着席ディナー。また開幕1週間後の集計では、すでに1万5705人を動員、02年のウォーホル展の1万4767人を超えた。

 同展を企画した、MOCAのチーフキュレーターであるポール・シンメル氏は「村上は文化的な日本を強調しているが、その人気は、かつてのジャポニスムとは異なり、グローバルなインターネット時代だからこそのものだ。コレクターは、歴史に残る、今一番いい作品を手に入れようと、世界中から個人ジェットでやってきている」。

 それにしても、オタク文化や「スーパーフラット」など日本の基層を見据え、愛憎こもごもの批評を展開してきた村上が、今なぜ、大仏か?

 村上は「日本の彫刻史で一番輝いていた、12世紀の『慶派』の工房を考えた。当時の戦乱の世と現在は通じているのではないか。そして、アメリカは戦時下の国なんです」という。今年ニューヨークの画廊で発表した大作絵画も迫力ある「だるま」だった。IT関連やヘッジファンドによる長者ら瞬間を生きる者たちが、癒やしや救いを求めていることを洞察しての戦略的選択とも見える。

 展示場内には、これまで制作したTシャツやカード、フィギュアなどのグッズ500種を陳列する一室もある。どうやら、少数収集家への一点制作と不特定多数ファンへの大量販売との両面作戦を展開中と見える。「生き残ることが自分のテーマだ」という村上。国際舞台の前面に出せる若い作家が不在だった日本の美術界は、ひとつの突破口を見つけたように思えた。

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