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既刊文庫、仕掛けて売れ オビ変えたら60万部

2007年12月05日11時47分

 刊行から13年たった文庫本が今年突然、累計60万部のベストセラーになった。きっかけは本に巻くオビの文言を変えたこと。発売から時間がたっても「仕掛ければ売れる」と業界を活気づけた。ロングセラーの定番本と読み捨てのペーパーバックに二極化している文庫の世界で、新しい“売れ筋”をどう作り出すか、関係者の試行錯誤が続く。

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 「91年度のこのミステリーがすごい! 第1位」

 こんなオビを新潮社が志水辰夫の『行きずりの街』(新潮文庫)につけたのは昨年末。94年に文庫化され、10年間で12万5000部が出て動きは止まっていたが、あれよあれよという間に売れ出した。郷里で塾を営む元教師が、かつて勤務した学校の暗部に迫るという10年以上前のミステリーが、1年で大ベストセラーともいえる50万部近くを売り、大きな話題になった。

 一般的にオビは編集者が考える。内容紹介のほか「最高傑作」「代表作」など大げさな言葉も多いが、今回、「第1位」という客観データを使ったのは営業部の提案。「91年」という古いデータでも、玄人好みとされる志水作品が1位だったという事実が、若いファンの意表をつくのでは、という狙いがあたった。「もっとも、中身が伴わなければこんなに売れ続けない」と編集部の佐々木勉さん。

■背表紙を一新

 また、小峰元『アルキメデスは手を汚さない』(講談社文庫)は73年の江戸川乱歩賞受賞作だが、94年に作者が亡くなり品切れ状態になった。ところが、直木賞作家東野圭吾の「この小説との出会いが、本嫌いだったバカ高校生の運命を変えた」という体験をオビに06年に復刊したところ、7万6000部まで増刷した。

 「文庫は出版社にとって財産。手を加えて生き返えらせる必要がある」と集英社文庫の小山田恭子編集長は話す。太宰治『人間失格』の表紙を人気マンガ家小畑健が描き、半年で13万部を超えるヒットとなった。また今春、すべての文庫の背表紙をパステル色へ一新、タイトルと入れ替えて著者名を先に記した。探しやすいと書店からも好評で、棚の本の回転率がよくなったという。

■年間8000点

 出版科学研究所によると、昨年は約8000点の文庫が発行された。しかし、新刊用の平台に置かれるのは1カ月で、棚の中や奥の平台に移動する。単行本に比べると文庫は薄利なだけに多売が求められる。売れないとなると容赦なく返本・断裁へ。年間4000点ほどが絶版になるという。

 個人経営の小規模書店が共同仕入れなどをするための有限会社NET21は、昨年から文庫担当者の投票で1点を選び、共通のオビをつけて加盟40店舗で重点販売している。今東光『毒舌・仏教入門』(集英社文庫)、田辺聖子『川柳でんでん太鼓』(講談社文庫)といった渋い名作が、確実に売れるという。

 書店側でも工夫を重ねる。絶版本を確保し、できるだけ品切れを防いでいるという東京・八重洲ブックセンター本店は、この夏、書店独自の文庫100選を試みた。棚に入って動きのない本を表舞台に出すのがねらいだった。

■ポップで推薦

 小さく地味な文庫に目を留めてもらうために、書店を飾る“ポップ”(宣伝用のカード)は、大きな役割を担う。ポップの推薦文もベストセラーを生むことがある。06年7月発売の安達千夏『モルヒネ』(祥伝社文庫)は、丸善お茶の水店の「うずくまって泣きました」と書かれた、独自のポップから火がついた。

 医師と末期癌(がん)患者の元恋人との恋愛小説。書店員の率直な感動が読者に伝わった。この店では担当者が気に入った文庫を何年もワゴンで平積みする。『モルヒネ』も発売から1年以上、目立つ平台に置かれ、この店だけで1200冊以上売れた。祥伝社は他の書店にも同様のポップを配り、1年余りで40万部のヒットにした。

 文芸評論家の池上冬樹さんは「『行きずりの街』のヒットは、新刊既刊の区別なく読者の目に触れさせれば売れると証明した。多種多様の文庫の中から1冊を選ぶためには、話題性や誰かのお薦めなど、よりどころが必要になる。ますます仕掛けが必要になるだろう」と話している。

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