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追随許さぬ広辞苑人気 定着ブランド、地道に改訂

2008年01月16日11時56分

 「国民的辞書」とまで言われる広辞苑の第6版が11日、岩波書店から発売された。10年ぶりの改訂で、予約だけで34万部に達した。魅力的な辞書は数多いのにどうして広辞苑ばかりが人気なのか。ライバル辞書の編集者や研究者に品定めしてもらった。

図広辞苑とライバル辞書

 昨年10月、広辞苑第6版で新たに収録する言葉をどう説明するか、12語の例が公表された。

 広辞苑のライバル大辞林を出している三省堂の萩原好夫・辞書出版部長は「入れた言葉ばかり」と安心した。06年10月に出した第3版には、「ニート」「めっちゃ」「ブログ」など9語をすでに載せていたからだ。

 このうち、両者で見出しの表記が違うものが一つある。大辞林の「イケメン」に対して、広辞苑は「いけ面」だ。

 「広辞苑は間違いに近い」と言うのは「語源由来辞典」というサイトを運営する柴田茂範さんだ。かっこいいを意味する「いけてる」に男性を意味する英語の「メン」が組み合わさったのが語源とみる。

 「『面』をかけるようになったのは後からで、まったく『メン』にふれないのは誤解を招く」

 ただ、柴田さんは同時に広辞苑の影響力も実感することになった。第6版に載ると決まってから、「いけ面」という表記がネット上で出始めた。最近では「広辞苑に従うべきだ」という投稿さえ来るようになった。

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 現在、最大の国語辞典は、13巻に50万語を収録する日本国語大辞典だ。内容を全3巻に絞った精選版でさえ、ページ数は広辞苑の2倍。出版する小学館の佐藤宏国語辞典編集長は「歩く、書く、悲しむのような基礎的な説明が広辞苑には不足してきた。7万語クラスの小型辞典の方が詳しい」と話す。

 辞書について研究する評論家の武藤康史さんは、国文学を学ぶ学生だった30年ほど前、発表で広辞苑を引用した同級生が教授から怒られているのを見た覚えがある。

 「項目も説明も不十分で、国語の研究者で引用する人はいなかった。逆に、広く浅く知りたい専門家以外の人には使いやすかったのではないか」

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 そうは言っても、累計1100万部を売り、新版の発売が必ずニュースになる別格の辞書だ。人気の秘密は何か。岩波書店編集部の上野真志課長は「それが分かればいくらでもベストセラーが出せる」と笑いつつ、理由の一つに地道に改訂を続けたことを挙げる。

 今回の改訂では1万語を増やした。4割弱が「カミングアウト」「スローフード」などのカタカナ語だ。一方、消えゆく可能性があると、「なまら」(北海道)「めんそおれ」(沖縄)などの方言や、「青バット」「赤バット」など昭和時代の事柄も載せた。

 誕生は1955(昭和30)年5月。書店で手に取った感動を井上ひさし氏は「敗戦国日本が文化的にも回復しつつあることを本という具体的な形で同胞に語ってくれていた」(ベストセラーの戦後史)と書いた。

 同規模の辞書は88年の大辞林まで出なかった。元読売新聞記者で「国語辞書 誰も知らない出生の秘密」(草思社)などの著書がある石山茂利夫さんは「同じ20万語台の大辞林、大辞泉(小学館)、日本語大辞典(講談社)が内容的に勝る面もあったのに、いったん定着したチャンピオンの座を揺るがすことができなかった」と話す。

 他社の編集者たちは「対抗するには、まったく新しい辞書を作る必要があった」と口をそろえる。哲学や科学、社会など百科項目も充実させたスタイルは、既存の辞書の改訂で追いつけるものではなかった。

 その広辞苑も無敵ではない。電子辞書の台頭で、第6版の初刷30万部は第5版の半分以下。87年にCD―ROM版を出すなど電子化でも先頭を走り、第6版が入った電子辞書も1月下旬から2月上旬にかけ2社から発売される。上野課長は「紙の辞書の人気は根強い。少なくとも次の第7版は本で出すことになるのでは」と話す。

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