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戦争遺跡に高まる関心 保存に「財政」「縦割り」の壁

2008年02月07日10時50分

 終戦から60年以上がたち、戦争の記憶が風化していくなかで、かつての司令部や軍需工場跡などといった、「戦争遺跡」の価値が見直されている。沖縄では初めての特別展が開かれ、関連の出版も相次ぐ。しかし、実際に遺跡そのものを保存するとなると難題も生じる。

写真取り壊しが進む、旧陸軍北部軍司令部防空指揮所=1月25日、札幌市豊平区で

 旧日本軍司令部があった首里城公園の地下壕(ちかごう)から出土したという、さびのかたまりのようなラジエーターや電話機。かたわらには、病院として使われたガマ(洞窟(どうくつ))で見つかったという薬品のアンプルが並ぶ。

 昨年暮れ、沖縄県糸満市の県平和祈念資料館で特別企画展「沖縄戦と戦争遺跡〜戦世(イクサユー)の真実を伝えるために」(現在は同県の八重山平和祈念館に巡回中、24日まで)が開かれた。戦争遺跡に焦点をあてた大規模な展覧会としては、全国で初めて。県内約50の遺跡を、遺物やパネルなど約400点を使って紹介する。

 企画した同館の城間美明主査は「戦後60年が経過し、今まで戦争経験を話してくれた語り部の方たちも亡くなるケースが増えてきた。その中で、戦争遺跡の重要性も今まで以上にクローズアップされてきたと思うんです」と語る。

 沖縄では地上戦で20万人以上が命を奪われた。県内には今も1000カ所近い戦争遺跡が残る。「戦争遺跡は沖縄戦の実態を語る、いわば永遠の生き証人。この展覧会を見た人に、遺跡まで足を運んでもらえれば」

 昨年11月に開館した沖縄県立博物館・美術館では、戦跡考古学を扱ったコーナーを設けている。「沖縄の人にとっては、興味があるテーマ。現状の一端を紹介したいと思いました」と同館の羽方誠主任。

 戦跡考古学は、明治以降第2次世界大戦までの戦跡を発掘するなどして研究する。広島の原爆ドームが96年に世界遺産に登録されたことなどを契機に、急速に広がりを見せている。

 戦争遺跡保存全国ネットワークの代表を務める、十菱駿武・山梨学院大教授によれば、この10年、戦争遺跡をめぐる状況は大きく変わってきたという。戦争関連の、国や自治体の文化財は、97年には全国で4件しかなかったが、07年8月現在130件を超えた。

 出版物も増えている。『しらべる戦争遺跡の事典』(柏書房)は続編が出た。『フィールドワーク浅川地下壕』(平和文化)、『フィールドワーク群馬の戦争遺跡』(同)、『大阪奈良戦争遺跡歴史ガイドマップ』(日本機関紙出版センター)など、市民や研究者がまとめた調査成果の刊行も相次ぐ。

 だが、遺跡の保存となると、簡単ではない。たとえば、「北の大本営」こと、旧陸軍北部軍司令部の防空指揮所(札幌市豊平区)。いま、解体中だ。

 戦争中、樺太や千島列島から東北までを警備し作戦を出す拠点として、1943年に建造された。爆撃に耐えられるよう、壁の厚さは2メートルもある。

 戦後は陸上自衛隊の送信所となったが、老朽化で使われなくなり、06年に北海道財務局へ移管された。同局は昨年12月、国家公務員宿舎約700戸分の用地にするため、国有地の一角にある指揮所の取り壊しを始めた。市民団体「札幌郷土を掘る会」などが再三保存を求めたが、今年3月までに解体が完了する予定だ。

 北海道財務局の斉藤興平・宿舎総括課長は「札幌では他に適地がなく、やむを得なかった」と説明する。

 札幌市も一時、買い取りを検討したものの、財政難などで断念。調査して建物の実測図などを作って、08年度中に公開することにした。

 文化庁は05年3月、軍事に関する近代遺跡のうち、特に重要で詳しい調査が必要とされる50件を選出した。毒物や爆弾を研究した川崎市多摩区の旧陸軍第9技術研究所(登戸研究所)、特攻基地として知られる鹿児島県知覧町(現・南九州市)の戦争関係遺跡などが含まれる。これらは将来、史跡指定も見込まれているが、札幌市の指揮所は選から漏れた。

 文化庁の山下信一郎・文化財調査官は「50件入りとは関係なく、戦争遺跡を守っていくことは必要だ。しかし、結局は地元が判断することで、文化庁としては、それを尊重せざるを得ない」と話す。調査や保存は自治体に任されている。

 戦跡考古学が専門の菊池実・群馬県埋蔵文化財調査事業団主席専門員は、「今後、戦争遺跡を残していくには、行政全体がその重要性を認識できるかどうかが鍵となるのではないでしょうか」と話す。

 一口に戦争遺跡といっても、全国に多数分布する特殊地下壕(防空壕)などは、建設部局の担当であることが多く、自治体の文化財担当部局の管轄外だ。自衛隊の基地内などに残る旧司令部や工場なども、管轄外。こうした縦割りゆえに情報の共有さえなされていない例も少なくないという。

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